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Avidity Biosciences (La Jolla, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第122回)ー

更新日:2021年5月5日


Antibody oligonucleotide conjugate(抗体オリゴヌクレオチド複合体)という抗体と核酸医薬品を結合させた複合体を用いて、核酸医薬品の体内分布をコントロールすることで、より正確な治療を行う技術を開発しているバイオベンチャー

背景とテクノロジー:

Ionis Pharmaceuticals/Biogenによって開発された脊髄筋萎縮症治療薬スピンラザ(ヌシネルセン)が承認されて以降、核酸医薬品の承認、臨床開発が活発になっている。

・スピンラザ(ヌシネルセン)は一本鎖DNAのアンチセンスオリゴヌクレオチドで、SMN2という遺伝子のmRNAのイントロン7にあるイントロン・スプライシング・サイレンサーN1に結合することで、SMN2エクソン7のエクソンスキップを抑制することで、完全長SMN2を発現させ、これが脊髄筋萎縮症で変異し機能欠失しているSMN1の機能を代替するという治療法である。

・Ionis Pharmaceuticalsと並ぶ核酸医薬品の有名バイオベンチャーであるAlnylam Pharmaceuticalsは、二本鎖RNAであるsiRNAを用いた遺伝子発現抑制による治療薬を開発しており、パチシラン(Onpattro)は、3’非翻訳領域を標的とすることで遺伝子変異によって折りたたみ異常が起きているTTR遺伝子をサイレンシングする、トランスサイレンチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの治療薬であるり、2018年FDAに承認された。

・これら以外にも多数の核酸医薬品が、遺伝子変異疾患を中心としたさまざまな適応疾患で開発されている。一方で、アンチセンスオリゴヌクレオチドにもsiRNAにも、静脈投与した場合に限られた臓器(主に肝臓と腎臓)にしか作用できないという問題点がある。この問題を解決するために、核酸医薬品に修飾をつけたり、脂質ナノ粒子に封入することで、臓器特異性を変える取組がなされている。

・Avidity Biosciencesは、核酸医薬品をさまざまな臓器に送達させるテクノロジーとして、独自技術であるAntibody oligonucleotide conjugate(AOC™:抗体オリゴヌクレオチド複合体)を開発している。この技術は、抗体を用いて標的の細胞や組織への送達および細胞内への取り込みを促進する。筋肉、心臓、肝臓、がん、免疫細胞などのさまざまな組織・細胞において、病気に関連するRNAを調節する技術である。標的細胞に運ばれたオリゴヌクレオチドはRNA阻害や、エクソンスキップ、アンチセンス、miRNAなどの機能で効果を発揮できる。

・抗体オリゴヌクレオチド複合体(AOC)の利点は以下の3つ。

①PKと体内分布の改善

古典的な核酸医薬品(複合体になっていないオリゴヌクレオチド)は、急速に体内から除去されるが、AOCは抗体医薬品と似たPKプロファイルと体内分布を示す。

②脂質による毒性の回避

DDSとして用いられる脂質ナノ粒子などの脂質の毒性が回避できる。

③二重の特異性

オリゴヌクレオチドは核酸配列によって特異的に作用できる。加えて抗体は特異的に標的たんぱく質に作用できる。AOCはこの2つの特性を併せ持つことで、正確に狙った作用部位に作用することが期待される。

パイプライン:

ミオトニンプロテインキナーゼ(DMPK)遺伝子の3’非翻訳領域に存在するCTG反復配列の異常な伸長(健常人で20回程度の繰り返し、患者さんでは4000回までの繰り返し)によって起こる遺伝性疾患である筋強直性ジストロフィー1型では、このCTG繰り返し配列(RNAではCUG)にmuscleblind-like protein (MBNL)というスプライシングに重要な役割を果たすたんぱく質が結合してしまう。そのためたくさんの他の遺伝子のmRNAスプライシングやポリアデニル化に異常が起こる。症状と病態生理は以下の2例がある。

①筋強直:筋肉のこわばり(例:手を強くぎゅっと握るとその後すぐに指が伸ばせずスムーズに手を開けない)。クロライドイオンチャネルのスプライシング異常によって起こる

②インスリン抵抗性。インスリン受容体mRNAのスプライシング異常によって起こる

AvidityではDMPK遺伝子の発現を強く抑制するsiRNAを同定している。また、筋肉に選択的にsiRNAを運ぶための抗体として抗ヒトトランスフェリン抗体を同定している。DMPK siRNAを抗体を結合させたAOCをマウスに投与すると、腓腹筋のDMPK遺伝子の発現が5週にわたって75%以上阻害されたという非臨床の結果を得ている。また筋強直性ジストロフィー1型患者さんの筋管細胞にDMPK siRNAを作用させるとスプライシング異常が正常化することをin vitroの実験で示している。

X染色体上のジストロフィン遺伝子のフレームシフト変異もしくはノンセンス変異によって起こる。変異を起こしているエクソンを飛ばして次のエクソンを翻訳するエクソンスキップという方法による治療法が試みられ、Sarepta Therapeutics(https://kenyoshida36.wixsite.com/drug-discovery-blog/single-post/2018/11/10/Sarepta-Therapeutics-Cambridge-MA-USA-%E3%83%BC%E5%85%83%E8%A3%BD%E8%96%AC%E7%A0%94%E7%A9%B6%E5%93%A1%E3%82%B1%E3%83%B3%E3%81%AE%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E6%8E%A2%E7%B4%A2%EF%BC%88%E7%AC%AC%EF%BC%98%EF%BC%98%E5%9B%9E%EF%BC%89%E3%83%BC)によって開発されたエクソンスキップのアンチセンスオリゴヌクレオチドeteplirsen(EXONDYS 51®)は2017年にFDAに承認されている。ジストロフィン遺伝子のエクソンスキップ作用を持つアンチセンスオリゴヌクレオチドと抗ヒトトランスフェリン抗体のAOCを筋ジストロフィーモデルマウスに投与すると、アンチセンスオリゴヌクレオチド単独に比べて100倍近くの活性があることを示している。

筋萎縮症

筋ジストロフィー、がんによる悪液質、糖尿病、腎不全、 慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心不全、脳卒中などによって起こるドラスティックな筋萎縮を起こす疾患。最近の研究により、この疾患がサイトカインや炎症反応の結果起こる、とある細胞内イベントによって筋肉におけるたんぱく質の分解促進やたんぱく質合成の低下が原因であることが示されている。Avidityでは筋萎縮症においてたんぱく質分解のキーとなる制御遺伝子の発現をコントロールするsiRNAを取得している。

最近のニュース:

Avidityの持つ抗体オリゴヌクレオチド複合体技術を用いて免疫学、その他の分野における創薬の共同研究およびライセンス契約をEli Lillyと締結。

コメント:

・核酸医薬品は全身投与による体内分布に偏りがある(肝臓や腎臓に行きやすい)ために、適応疾患が限られるという問題点がある。脂質ナノ粒子(LNP)を用いたsiRNAや、修飾核酸でも肝臓に行きやすいケースが多いため、その他の臓器の疾患への適応に難点があった。抗体オリゴヌクレオチド複合体(AOC)はその問題点を解決できる可能性があり、今後の展開が注目される。

・臓器特異的な表面抗原およびそれに結合する抗体の取得もキーになるだろう。今のところAntibody drug conjugate(抗体薬物複合体:ADC)で得られているのはがん細胞特異的抗体が多い。他の臓器特異的な抗体の取得ができれば、いろいろな疾患への応用が期待される。

・ADCでは、抗体にいくつの薬物を結合させられるかが治療効果の重要なポイントの一つだが、AOCも同様の問題がある可能性がある。ホームページの構造解析イラストでは1つの抗体に3つのオリゴヌクレオチドが結合しているようだが、それで十分な効果を示せるのかが知りたいところ。非臨床のデータでは比較的高い活性が示されている。

キーワード:

・核酸医薬品(抗体オリゴヌクレオチド複合体)

・筋肉疾患

・DDS

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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