Oxford Biomedica (Oxford, United Kingdom) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第120回)ー
- Ken Yoshida

- 2019年7月7日
- 読了時間: 5分
レンチウイルスベクターを用いた治療をex vivoによるCAR-T療法だけでなく、目や脳のin vivo治療への実用化を目指しているバイオベンチャー。NovartisのKymriahのレンチウイルス製造も担っている。
背景とテクノロジー:
・がんの領域ではCAR-T療法の画期的な効果が示されて以降、CAR-T療法に対する開発競争が加熱している。NovartisのKymriah™ (tisagenlecleucel) は患者さんから取り出したT細胞にCAR(キメラ抗原受容体)を遺伝子導入して患者さんに投与する自家細胞移植療法だが、遺伝子導入にレンチウイルスベクターを用いたex vivoの遺伝子療法でもある(Kite Pharma/GileadのYescarta™ (axicabtagene ciloleucel) はγレトロウイルスベクターを用いて遺伝子導入)。
・Spark Therapeutics/RocheのLUXTURNA™ (voretigene neparvovec-rzyl)、AveXis/NovartisのZolgensma® (onasemnogene abeparvovec-xioi)は、体内に直接アデノ随伴ウイルスベクターを投与することによるin vivo治療による遺伝子治療法。
・これ以外にもアデノウイルスや単純ヘルペスウイルスを用いた腫瘍溶解性ウイルス療法もある(IMLYGIC(talimogene laherparepvec)など)。
・このようにウイルスを用いた治療法の開発は非常に進んでいるが、その中でもレンチウイルス/レトロウイルスとアデノ随伴ウイルスは臨床応用が進んでいる。
・そんな状況の中、Oxford Biomedicaはレンチウイルスベクターを用いたex vivo、in vivo療法の独自プラットフォームを持っており(LentiVector® Platform)、レンチウイルスの臨床応用で世界をリードしているバイオベンチャーである。上記にも書いたレンチウイルスベクターを用いたCAR-T療法、NovartisのKymriahは、CAR-T細胞作製時のレンチウイルスベクターをOxford Biomedicaが製造している。
・Oxford Biomedicaは、レンチウイルスベクターを用いたin vivo療法にも取り組んでいて、中枢神経疾患、眼疾患で臨床開発を行っている。in vivoウイルス療法ではアデノ随伴ウイルスベクターの方が臨床開発が進んでいるが、レンチウイルスはアデノ随伴ウイルスに比べて以下の3つの利点がある。
①アデノ随伴ウイルスは宿主細胞のゲノム挿入がないため、非分裂細胞への感染のみだが、レンチウイルスは宿主細胞のゲノムへ挿入されるため、分裂細胞への感染も可能。
②アデノ随伴ウイルスは積める遺伝子サイズがプロモーター含めて最大およそ4.7kbまでとされるが、レンチウイルスは9kbまで可能。
③アデノ随伴ウイルスは通常の生活中に不顕性感染して抗体を持っている人が多く、抗体を持つ患者さんには投与しても効果が期待できないのに対して、レンチウイルスは抗体を持つ人が少ない。
パイプライン:
・OXB-202
角膜移植は移植後に血管新生によって拒絶反応が起こってしまうことがある。OXB-202は角膜移植前の角膜細胞に対してレンチウイルスベクターを用いて、血管新生を阻害するたんぱく質endostatinとangiostatinを遺伝子導入するex vivo療法。移植角膜細胞はendostatinとangiostatinを分泌することで血管新生を阻害し、角膜移植時の拒絶反応が防止されることが期待される。
開発中の適応症
・Phase I/II準備中
角膜移植時の拒絶反応予防
・OXB-302
患者さんから抽出し増殖させたT細胞にレンチウイルスベクターを用いて5T4抗原を認識する抗体遺伝子を遺伝子導入し、患者さんに戻す自家細胞移植のがん免疫療法。5T4抗原はさまざまながんにおいて細胞表面に発現している抗原。
開発中の適応症
・非臨床研究段階
さまざまながん(血液がん含む)
・RetinoStat®(OXB-201)
抗血管新生たんぱく質であるendostatinとangiostatinを発現するレンチウイルスベクター。網膜下への1回投与により網膜細胞に感染し、endostatinとangiostatinを分泌する。
開発中の適応症
・Phase I終了
滲出型加齢黄斑変性症(wet AMD)、(糖尿病網膜症)
・AXO–LENTI–PD(OXB-102)
生体内においてドパミン合成に関わる酵素であるtyrosine hydroxylase、cyclohydrolase 1とaromatic L-amino acid decarboxylaseの3遺伝子を発現するレンチウイルスベクター。外科的手術による脳(線条体)への1回投与により脳細胞に感染し、ドパミンが産生、放出される。Axovantとの共同開発。
開発中の適応症
・Phase I/II
パーキンソン病
・SAR422459
開発中の適応症
・Phase I/II
スターガルト病
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01367444
・SAR421869
Myosin VIIA (MYO7A)を発現するレンチウイルスベクター。MYO7A 遺伝子の変異によって起こるアッシャー症候群タイプ1Bの患者さんへの網膜下への1回投与。Sanofiとの共同開発。
開発中の適応症
Phase I/II
アッシャー症候群タイプ1B、(網膜色素変性症)
最近のニュース:
Oxford Biomedica 社のレンチウイルスベクター技術を利用して、特定の遺伝性網膜疾患を対象にした遺伝子治療用ベクターを開発し、その妥当性を非臨床試験で検証する
レンチウイルスベクター製造行程の製造量、純度、コスト改善をクラウドと機械学習を用いて見出すマイクロソフトとの共同研究契約。
コメント:
・レンチウイルスベクターの製造に関しては、KymriahなどのCAR-T細胞の製造に関してNovartisと、OTL-101, OTL-201などの製造に関してOrchard Therapeuticsと提携している。つまり、独自医薬品の自社研究だけでなく、CMOとしての業務も行っている(参考)。
・レンチウイルスベクターは確かにアデノ随伴ウイルスベクターより優れた点はあるが(”背景とテクノロジー”の欄①−③参照)、逆に宿主細胞のゲノムに挿入させるという点・ヒトHIV(AIDSウイルス)を原型としている点では安全性のリスクはある。そのためにこれまではコントロールしやすいex vivo治療が先行していた。in vivoでのレンチウイルスベクター治療は目への投与では安全が確認された(Phase I)とのこと。アデノ随伴ウイルスベクターとは異なる特性を持つレンチウイルスベクターのin vivo治療法の確立は幅広い疾患への適応が期待できるため注目。
・レンチウイルスは、レトロウイルスと比べて大量生産が難しいという問題がある。その点について解決するためにMicrosoftやNovartisと共同研究を行っているのだろう。レンチウイルスベクター製造に関してはかなりのノウハウを持っている可能性が高いと思う。
キーワード:
・遺伝子治療(レンチウイルスベクター)
・CAR-T療法
・眼疾患
・パーキンソン病
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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