畳込みニューラルネットワークを使ったStructure-based drug designによって、たんぱく質ーたんぱく質間相互作用を阻害する低分子化合物など、新たな低分子創薬を行っているAI創薬バイオベンチャー
ホームページ:https://www.atomwise.com/
背景とテクノロジー:
・従来行われてきた、化合物ライブラリー(数百万の合成された化合物群)を用いて生物学的アッセイ(酵素阻害アッセイや、受容体結合アッセイ、細胞内カルシウム測定アッセイなど)を行うハイスループットスクリーニングが限界を迎える中、新たな低分子化合物創薬の方法が求められている。
・その方法としてFragment-based drug design (FBDD)や、Structure-based drug design(SBDD)が開発され、これらの技術から開発された薬が臨床試験に供されたり、承認されたりしている(参考:Astex Pharmaceuticals, Sosei Heptaresなど)。
・SBDDは たんぱく質の3次元構造からターゲット分子に結合できる低分子化合物を見つけ出す方法である。たんぱく質の立体構造が分かっていれば、重要なのはたんぱく質と低分子化合物の結合をコンピューターを用いてシミュレーションするかが重要となる。
・Atomwiseは、人工知能技術の一つである畳込みニューラルネットワークをスーパーコンピューターを用いてシミレーションするプログラムを開発しており、AtomNetと名づけている。AtomNetはケミカルスペース中に存在する無数の化合物と、たんぱく質との結合をシミレーションすることにより、ターゲット分子と特異的に結合する低分子化合物を見つけ出す。
・AtomNetを用いたアプローチにより、ヒット化合物発見・リード化合物選定・リード化合物最適化・作用機序不明な低分子化合物からの作用機序解明などができるとしている。そしてAtomwiseはすでに、これまでにない新たな低分子化合物を予測することに成功している。
パイプライン(非開示のためプレスリリースなどから抜粋):
・エボラ出血熱治療薬
7000個のPhaseIIをパスしている化合物もしくは承認薬の中から、エボラ出血熱に効果を持つ薬を発見するプログラム。予測アルゴリズムから、2015年3月時点で2つの候補薬を見出している。エボラウイルス(改変型?)が細胞に感染するアッセイ系のデータを用いてAIで解析を行い、エボラウイルス感染を抑制する化合物を見出した。これらの薬はエボラ出血熱とは全く異なる治療薬(候補)とされている薬である。IBMとの共同研究。
・多発性硬化症治療薬
たんぱく質ーたんぱく質間相互作用を阻害し、経口投与で脳血液関門を通過し脳に入る低分子化合物をデザインした。多発性硬化症の動物モデル(EAE)で3 nM/gでの作用を確認している。
・農薬
モンサント社との共同研究。AtomNetを用いてどの分子が害虫や作物の病気に関与しているかを明らかにし、農薬を作り出すプロジェクト。
最近のニュース:
AtomNetを用いて3つのターゲット分子に対し作用する候補分子を見つけ出す共同研究契約をPfizerと締結。
コメント:
・AbbvieやMerck、Bayerともパートナーシップを結んでいるようだが詳細は不明。
・従来のハイスループットスクリーニングによる方法では見つかる確率が非常に低かった、脳血液関門を透過できてたんぱく質ーたんぱく質間相互作用を阻害できる経口薬を、AIで発見できるのであれば素晴らしい。
・低分子化合物にはリピンスキーの5つのルールが一般的だが、そのルールを大きく変えるようなケミカルスペースをAIが見つけられるなら凄いのだが、果たしでどうなのだろうか?
キーワード:
・AI創薬
・低分子化合物
・Structure-based Drug Design
・畳込みニューラルネットワーク
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。