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ASIT Biotech (Brussels, Belgium) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第104回)ー


花粉症・食物アレルギーなどのアレルギー疾患に対する免疫療法の開発を目指すバイオベンチャー

ホームページ:https://www.asitbiotech.com/

背景とテクノロジー:

・3月に入り、花粉症のシーズンになった。私もずい分前からスギ・ヒノキの花粉症を発症していて、毎年5月くらいまではつらい日々が続く。そこで今回は花粉症を含むアレルギーの新しい治療法に取り組むバイオベンチャーを紹介したい。

・花粉症・ハウスダストアレルギーへの現行の治療法は抗ヒスタミン薬による治療が主である。これは対症療法であり、花粉・ハウスダストに対するアレルギーで出てきた不快な症状(眼や喉の痒み・鼻水)を止めているだけで、アレルゲンに対する免疫反応を止めている訳ではない。そのため基本的に服薬により改善することはなく、常に服用する必要がある。

・ピーナッツ・鶏卵などの食物へのアレルギーはアナフィラキシー・ショックなどのもっと重篤な症状を引き起こす時もあり、その場合はエピペン(アドレナリン注射)が用いられる。

・根本治療としては、舌下免疫療法といって、アレルゲン(花粉やダニ抗原)を舌の下に垂らして一定時間曝露させる方法があり効果があるが、数年間という長期間の服用が必要となるため、最初から取り組まない患者さん、取り組んでも途中で挫折する患者さんが多い。アレルゲンを皮下に投与する皮下免疫療法もあるが、同様の問題がある。

・ASIT BiotechではASIT+™ プラットフォームという独自技術を開発している。これは、天然のアレルゲンをその元(植物やダニなど)からたんぱく質成分のみを抽出し、これを標準化された酵素によって加水分解しフラグメント化する。このフラグメント化によってアレルゲンによるアレルギー反応を減弱させる。舌下免疫療法より短期間(3週間〜7週間)で、舌下免疫療法と同様の治療効果が期待される。

・通常のアレルゲンはそれを特異的に認識するIgEを持つマスト細胞に認識されることで、マスト細胞から炎症誘発性サイトカインなどが放出されるが、フラグメント化された抽出アレルゲン(ASIT+™ フラグメント)では、IgE間が架橋されない(IgEがクラスタリングされない)ことによって、炎症誘発性サイトカインなどの放出が抑制されることが期待される(分かりやすい説明イラストはこちら)。

パイプライン:

gp-ASIT+™

草から抽出されたたんぱく質成分をフラグメント化した混合ペプチド溶液(アジュバントを含まない)。3週間で計4回来院して皮下投与を行う。1回の来院で両腕に30分間隔をあけて1回ずつ注射する。

開発中の適応症

・Phase III

花粉症(欧米ではスギ花粉だけでなく、草全般から出る花粉によって起こる)による鼻炎

hdm-ASIT+™

ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoïdes pteronyssinus)の体から抽出したたんぱく質成分をフラグメント化した混合ペプチド溶液(アジュバントを含まない)。7週間で15回の皮下投与。

開発中の適応症

・Phase II?(ホームページ上は前臨床段階?)

ハウスダストアレルギーによる喘息

pnt-ASIT+™

ピーナッツから抽出したたんぱく質成分をフラグメント化した混合ペプチド溶液(アジュバントを含まない)。投与経路、投与回数などは不明。

開発中の適応症

・前臨床段階

ピーナッツアレルギー

コメント:

・これらのパイプライン以外にも、卵白、牛乳などの食物アレルギーや、日本のスギに対するアレルギーへの免疫療法も開発中とのこと。スギ花粉症の根治療法ができることを期待したい(けっこう切実。できればヒノキ花粉もお願いしたい)。

・この方法がうまくいくのであれば、他の食物アレルギー(甲殻類、そばなど)、稲などのシーズナルな他の花粉症、動物アレルギーなど多くのアレルギー疾患への治療法になる可能性があるのではと思う。元研究員としては、マウス・ラットアレルギーで大変な研究者の元同僚たちの助けになったらいいなと思う。

・ASIT Biotechが開発中の免疫療法は舌下免疫療法の治療期間短縮バージョンなので、薬効メカニズムは舌下免疫療法と同じだと考えられる。舌下免疫療法が効果を持つメカニズムは以下のように考えられている;通常より多量のアレルゲンに曝露されることで、Th1細胞やTreg細胞が活性化し、その結果アレルゲンへのIgG抗体の産生が増えることでIgE抗体への結合が減弱し、アレルギーが起こらなくなる。

キーワード:

・アレルギー免疫療法

・花粉症、ハウスダストアレルギー、食物アレルギー

・ペプチド

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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