top of page
検索

Samumed (San Diego, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第102回)ー


Wntシグナルを調節する複数の低分子化合物を用いて体性幹細胞の増殖・分化を制御することで加齢性疾患を含むさまざまな疾患の治療を目指すバイオベンチャー

背景とテクノロジー:

・さまざまなモダリティの技術発展や遺伝学などの発達により、がんを代表とする多くの疾患で有効な治療薬が開発されてきている。一方で、なかなか治療薬開発が進まない領域もあり、その一つがアルツハイマー病などの加齢性疾患である。

・加齢性疾患は10年以上の単位で進行する、身体の老化に伴う疾患であり、その治療アプローチはなかなか難しい。このために治療薬開発が進んでおらず、例えばアルツハイマー病は治験成功率が過去16年でたった3.1%しかない(参考)。

・生物は、細胞を増殖させることで組織を常に働く状態に保っている。しかし老化が進むと、その組織を働く状態に保つ能力が落ちてくる。この能力の多くを担っているのが、それぞれの組織に存在する幹細胞で、老化に伴い幹細胞の分化・増殖能が落ちてくることが、加齢性疾患の原因の一つと考えられている。

・そこで幹細胞の増殖や分化を制御する治療薬を作ることで加齢性疾患を治療できないかどうか検証を行っているがSamumedである。

・Samumedでは、幹細胞の増殖や分化を制御するターゲットとしてWntシグナルに着目している。Wntシグナルは、心臓・肺・肝臓・骨・軟骨における幹細胞の増殖や維持に関与していることが報告されている(参考)。そこで、Samumedでは、Wntシグナルを活性化したり阻害することで、さまざまな疾患における治療薬となる可能性を検討している。

パイプライン:

SM04690

Wnt経路を阻害する低分子化合物。関節内投与。新しい関節軟骨の形成、軟骨分解の減速、関節炎症の減弱の3つの効果が非臨床実験で確認されている。

開発中の適応症

・Phase II

・Phase I

椎間板症

SM04554

Wnt経路を活性化する低分子化合物。頭皮に塗布する外用薬。毛包の増加、うぶ毛ではない毛の密度の増加の効果がPhase IIで確認されている。

開発中の適応症

・Phase II/III

SM04646

Wnt経路を阻害する低分子化合物。吸入投与。非臨床実験において抗線維化効果が確認されている。

開発中の適応症

・Phase II

SM04755

Wnt経路を阻害する低分子化合物。患部皮膚に塗布する外用薬。非臨床実験において炎症抑制効果、皮膚線維化への抑制効果が確認されている。

開発中の適応症

・Phase I

SM08502

Wnt経路を阻害する低分子化合物。経口投与。がん細胞の増殖や分化を制御する遺伝子の発現を抑制する効果が期待される。

開発中の適応症

・Phase I

すい臓がん

SM07883

Dual specificity tyrosine-phosphorylation-regulated kinase 1A(DYRK1A)を阻害する低分子化合物。経口投与。非臨床実験においてタウたんぱく質の過剰リン酸化およびそれに続く神経原線維変化を抑制する効果が確認されている。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

アルツハイマー病

最近のニュース:

特発性肺線維症を適応としたSM04646の北米における権利をUnited Therapeuticsに譲渡

コメント:

・Wntシグナル経路は発生段階において重要なシグナル経路であり、活性化したり阻害することはシビアな毒性を引き起こす可能性が高いと思っていた。しかし、投与経路は工夫されている(局所投与が多い)が、Wnt経路の薬が治療薬になる可能性を示しており、非常に面白い。

・非常に多額の資金を集めており、加齢性疾患関連のユニコーン企業として注目されている。開発中の疾患を見る限りは加齢性疾患と分類されるのか疑問なものも多いが。。。ガチの加齢性疾患ベンチャーであるUnity BiotechnologyElevianとは少し違う感じだが、手堅いやり方してるという印象。

・幹細胞の増殖や分化に関与しているWntシグナルの薬を使っているが、本当に幹細胞に作用して効果がでているのだろうか?別の細胞への効果の可能性もあり得るのでは?特に抗線維化とかは。。。

キーワード:

・Wntシグナル

・低分子化合物

・加齢性疾患

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

最新記事

すべて表示

Arkuda Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第143回)ー

ライソゾーム機能の低下と神経変性疾患の関係に着目した創薬を行っているバイオベンチャー ホームページ:https://www.arkudatx.com/ 背景とテクノロジー: ・ライソゾームに局在する酵素の欠失によって起こる病気として遺伝子変異疾患であるライソゾーム病が知られ...

Audentes Therapeutics (San Francisco, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第142回)ー

希少疾患に対してアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療薬の開発を行っているバイオベンチャー。現在課題となっているAAVの大量製造およびヒトへの高濃度投与に関して先行している。2019年12月アステラス製薬による買収が発表された。...

bottom of page