万能インフルエンザワクチンがPhase III段階と他社に比べて先行しているバイオベンチャー。もし効果が確認されれば、人類のインフルエンザウイルス克服の可能性も。
ホームページ:http://www.biondvax.com/
背景とテクノロジー:
・インフルエンザはシーズン中に、全人口の5−20%が罹患すると考えられている。WHOによると、全世界で毎年29万人〜65万人がインフルエンザにより死亡している。
・インフルエンザウイルスはA型、B型、C型があり、A型はヒトと動物の両方で見られるが、B型、C型はヒトのみで見られる。C型は頻度がまれでかつ症状が穏やかなため問題となることが少ない。B型はインフルエンザ患者さんの20%が罹患する。B型は表面抗原の変異は起こりにくいと考えられている。
・インフルエンザA型は最も多いインフルエンザで、易感染性である。また、表面抗原が変化しやすい。
・表面抗原のマイナーチェンジは抗原ドリフトと呼ばれる。メジャーチェンジは抗原シフトと呼ばれる。表面抗原が大きく変化すると、以前罹患したインフルエンザの免疫では対応できないことが多い。
・これまでインフルエンザの大流行は、1918年(スペイン風邪)、1957年(アジア風邪)、1968年(香港風邪)、1976年(豚インフルエンザ)、1977年(ソ連風邪)、2009年(豚インフルエンザ)に起こっている。種間を超える感染が起こることで抗原のメジャーチェンジ(抗原シフト)が起こり、大流行が発生する。
・より強力な病原性を持つインフルエンザウイルス発生の可能性が懸念されており、1997年に初めてヒトへの感染が見つかった鳥インフルエンザH5N1型や、2009年の豚インフルエンザなど、その予兆を感じる出来事は起こっている。
・現行のインフルエンザワクチンは、前シーズンに流行したインフルエンザウイルスの型や、南半球で流行しているインフルエンザの型を参考にして、シーズンの半年前にWHOが決定した流行が予想されるインフルエンザの型(2種のA型と1−2種のB型の合計3−4種)に基づいて作製された不活性化ワクチンである。しかし、予想が当たらないことが多く、効果は約40%と試算されている(2014/2015シーズンは米国で19%だった)。
・そのため万能インフルエンザワクチンの開発が行われている。これは、メジャーなインフルエンザの型の多くに共通するエピトープを含むたんぱく質ワクチンを用いた方法である。
・BiondVaxでは、抗原ドリフトや抗原シフトに関わらず、ヒトインフルエンザの型に共通する保存されたエピトープを抗原とした。この抗原はウイルス特異的であり、ヒトのたんぱく質とは類似しないため自己免疫を引き起こさない。
・これまでのインフルエンザワクチンは効果が持続しないため、毎年摂取する必要があったが、BiondVaxのワクチンは複数年の間、効果が持続することが期待される。そのため、ワクチン摂取のタイミングは限定されない。
・これまでのインフルエンザワクチンは、製造に4−6ヶ月必要だったが、BiondVaxのワクチンは6−8週間での製造が可能である。
パイプライン:
・M-001(別名:Multimeric-001)
インフルエンザウイルスA型、B型に共通する、多くのインフルエンザウイルスで保存されたたんぱく質配列9種類をミックスしたたんぱく質ワクチン。
開発中の適応症
・Phase III
インフルエンザ
コメント:
・万能ワクチンの効果が確認されて各国で承認されたら、現行のインフルエンザワクチンを販売している会社はどうなるのだろうか?
・リコンビナントたんぱく質のワクチンということは、製造に時間がかかるし、それなりの価格になってくるのだろうか?
・進行中のPhase IIIは9630人の50歳以上の人にワクチン(プラセボ群は生食)を2回(0日と21日後)摂取し、2シーズン(およそ1.5年)の間にPCRでインフルエンザと確認された人の割合が主要評価項目。9630人全員が罹患する訳ではないだろうから、こんな組入れ人数になるのだろうが、すごい人数。
・ワクチンだけでなく、万能型のインフルエンザ抗体医薬品を開発している会社もある。これはインフルエンザの保存された配列を認識する抗体を投与する方法。ただ、おそらく長期の効果は今の技術では難しいだろう。BiondVaxのワクチンに比べて高額になる可能性が高い。
・他にも万能型インフルエンザワクチンを開発している会社がある。WikipediaのClinical Development欄参照。
キーワード:
・ユニバーサルインフルエンザワクチン
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。