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Cortexyme (South San Francisco, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第100回)ー


歯周病菌が原因となってアルツハイマー病が進行するという仮説に基づいて、アルツハイマー病治療薬として歯周病菌の出すプロテアーゼの阻害剤を開発している注目バイオベンチャー

ホームページ:https://www.cortexyme.com/

背景とテクノロジー:

・アルツハイマー病を始めとする認知症は、世界で約4600万人の患者さんがいると言われている。さらに、2030年には約7500万人、2050年には約1億3000万人になると推計されている(参考)。

・にも関わらずアルツハイマー病の進行を抑制する治療薬はない。アミロイドβが原因物質として考えられているが、アミロイドβをターゲットとしたBACE阻害剤、γセクレターゼ調節剤、アミロイドβ抗体の臨床試験は今のところ成功していない。

・そこでアミロイドβ以外のターゲットとして、タウたんぱく質やTREM2などを標的とした治療薬の開発が行われている。例えばAlectorはTREM2をターゲットとした抗体医薬品を開発中である(参考)。

・Cortexymeは、アルツハイマー病患者さんの脳の中で発見された歯周病の原因菌Porphyromonas gingivalisをターゲットとした治療薬の開発を行っている。この細菌は歯周病によって口腔内で増えると血液内に侵入し、そこから血液脳関門を通過して脳内に侵入する。その後、この細菌は脳内においてgingipainsというプロテアーゼを放出し、これが神経細胞の細胞死を誘導することでアルツハイマー病を引き起こすという仮説である。

・慢性の歯周病を持つアルツハイマー病患者さんは認知機能の低下が大きいというデータも出ている(参考)。

・COR388はgingipainsを阻害する低分子化合物で、神経細胞死の抑制・脳内免疫の活性化抑制・Aβ42(アミロイドβの中でも毒性の強い断片)の産生抑制することでアルツハイマー病の進行を抑制することが期待される。

パイプライン:

・COR388

gingipainsのプロテアーゼ活性を阻害する低分子化合物。経口投与。

開発中の適応症

・Phase I(2019年中のPhase II開始予定)

アルツハイマー病

最近のニュース:

COR388のPhase Iの結果。健常人とアルツハイマー病患者さんで安全性と忍容性が確認された。また、アルツハイマー病患者さんの認知機能の改善傾向が見られた(統計的有意を出せる人数は試していない)

コメント:

・COR388は、歯周病菌が悪さをしてアルツハイマー病になるという新しい仮説に基づいた化合物で、どうなるかはとても楽しみだ。一方で、これまで行われた他のアルツハイマー病の臨床試験を見る限り、神経細胞死を抑制するなどの進行抑制だけでは認知機能の改善というアウトプットが得られていない。認知機能に対して進行抑制だけでなく、ポジティブに働く(つまり良くする方向)何かがないと、有意な改善というほどの結果は得られないかもしれない。

・アルツハイマー病の原因は一つではない多因子疾患である可能性が高いと考えられている。その場合、一つの原因を攻めたとしても、十分な効果は得られないかもしれない。第一段階としてCOR388単剤の効果を見るのは必要として、もし単剤でうまく行かなかったとしても、次にCOR388+抗アミロイドβ抗体+somethingと言った感じでの臨床試験はできないだろうか?

・この仮説が本当かどうかは未だ分からないが、いずれにせよ丁寧に歯みがきをして歯周病予防しておくことでアルツハイマー病の発症を予防する可能性はあるので、歯みがきするように心がけたい。

・2019年1月23日のScience AdvancesにCortexymeからの報告が掲載された(こちら)。この論文の日本語紹介記事はこちら

キーワード:

・アルツハイマー病

・歯周病菌

・低分子化合物

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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