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MultiVir (Houston, TX, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第95回)ー

更新日:2022年6月5日


アデノウイルスを用いたがん免疫療法を開発しているバイオベンチャー。樹状細胞ワクチン療法の開発も行っている。

ホームページ:https://multivir.com/

背景とテクノロジー:

・がん免疫療法の開発に投資が集まってきているが、がん免疫療法の中ですでに臨床において有効性が示されているのは主に以下の4つである

①免疫チェックポイント阻害薬 ー PD-1シグナルやCTLA-4シグナルを阻害する抗体医薬品を用いた治療法(オプジーボ、キイトルーダ、ヤーボイなど)

②遺伝子改変T細胞移植療法 ー キメラ抗原受容体(CAR)を導入したT細胞の移植による治療法(Kymriah、Yescarta)

③腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の移植療法 ー 腫瘍反応性T細胞を拡大培養して輸注する治療法(Rosenbergらによってメラノーマへの有効性が報告済みだが、承認取得には至っていない(参考))

④腫瘍溶解性ウイルス療法 ー がん細胞に感染して増殖し、がん細胞を死滅させるウイルスを用いた治療法(Imlygic)

・MultiVirが取り組んでいるのがウイルスを用いたがん免疫療法である。ウイルスを用いたがん免疫療法ですでにヨーロッパで承認されているのはAmgenのT-VEC(商品名:Imlygic)で、これは切除不能な転移性メラノーマを適応とし、GM−CSFを搭載した遺伝子組み換え単純ヘルペスウイルスである。

・MultiVirではアデノウイルスにがん抑制遺伝子であるp53やIL24を導入したウイルスを投与する治療法を開発中である。日米欧においてアデノウイルスを用いたがん治療法の承認はない。しかし中国において、以下の2つのアデノウイルスを用いた治療法が承認されている。

①Shenzhen SiBiono GeneTech社のGendicine(ヒト野生型p53を発現するアデノウイルスベクター)

②Shanghai Sunway Biotech社のOncorine(E1B-55K、E3欠損の腫瘍溶解性ウイルス

・岡山大・オンコリスバイオファーマは、腫瘍細胞内で活性化されているHumantelomerase reversetranscriptase(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素: hTERT)プロモーター存在下でのみ増殖するよう制御さ れているアデノウイルスを用いたがん治療法Telomelysinを開発中である。

パイプライン:

Ad-p53

がん抑制遺伝子p53を発現するアデノウイルス。p53遺伝子に異常を持つがんへの治療法。p53が発現することにより免疫反応が活性化されるとともに、免疫を抑制するがん遺伝子の発現を阻害する。抗PD1抗体の併用試験。腫瘍内投与。

開発中の適応症

・Phase II

再発性の頭頸部扁平上皮がん

・Phase I/II

転移性肝がん、再発性の頭頸部扁平上皮がん

Ad-IL24

がん抑制遺伝子IL24を発現するアデノウイルス。IL24遺伝子に異常を持つがんへの治療法。IL24が発現することにより免疫反応が活性化されるとともに、免疫を抑制するがん遺伝子の発現を阻害する。抗PD1抗体の併用試験。腫瘍内投与。

開発中の適応症

・前臨床試験段階

進行性メラノーマ

Ad-p53DC

患者さん自身の血液から抽出した末梢血単核細胞(PBMC)にGM-CSFとIL-4を添加し樹状細胞を培養する。この樹状細胞にp53発現アデノウイルス(Ad-p53)を感染させることでp53を発現する樹状細胞を作製する。この樹状細胞を患者さんの皮膚に接種することでワクチンとして作用させる樹状細胞ワクチン療法。抗PD-1抗体や抗CTLA-4抗体との併用療法。

開発中の適応症

・Phase II

再発性の小細胞肺がん

コメント:

・上述の通り、p53発現アデノウイルスによるがん治療は2003年に中国で承認済みで、MultiVirのAd-p53も治験で効果を示す可能性が高いが、どうなるか。

・アデノウイルスは免疫原性が高く、アデノウイルスの投与だけで免疫反応を活性化できる。一方で高濃度で投与した場合は毒性の懸念がある。

キーワード:

・遺伝子治療

・アデノウイルス

・がん治療

・p53

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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