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ProQR Therapeutics (Leiden, the Netherlands) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第92回)ー


RNA編集を誘導する核酸医薬品という独自技術で遺伝子変異による希少疾患治療薬を開発しているバイオベンチャー。エクソンスキップ療法なども開発している。

ホームページ:https://www.proqr.com/

背景とテクノロジー:

・単一遺伝子の変異による疾患は非常に多くあると言われているが、ほとんどの疾患は治療法がない。近年の新しいモダリティの進歩によって治療法が確立されつつある疾患もあるが、まだまだ数多くの疾患が残されている。

・単一遺伝子の変異を治療する方法としては遺伝子治療が有望だと考えられている。その中でもアデノ随伴ウイルスベクターを用いた治療法は毒性の懸念が低いため注目を浴びている。例えばSpark TherapeuticsはRPE65遺伝子の変異によって失明を引き起こすタイプの遺伝性網膜ジストロフィーに対してRPE65を発現するアデノ随伴ウイルスベクターLuxturna(voretigene neparvovec-rzyl)を開発し、2017年にFDAによって承認された。

・GSKは、アデノシン・デアミナーゼ欠損による重症免疫不全症(ADA−SCID)への治療薬Strimvelis を開発した。これは患者さんの骨髄から採取した造血幹細胞に対して、γレトロウイルスベクターを用いてアデノシン・デアミナーゼ遺伝子を導入し、増殖後、患者さんに投与することで免疫細胞への毒性を軽減する遺伝子治療である(現在はOrchard Therapeuticsにライセンスアウトされている)。2016年にEMAによって承認された。

・ProQRでは核酸医薬品を用いた遺伝子変異疾患治療法を開発している。独自技術であるAxiomer® technologyを持つ。これはヒト細胞自身が持つRNA編集酵素Adenosine Deaminase Acting on RNA(ADAR)をリクルートしてくる人工合成核酸、アンチセンスオリゴヌクレオチド(Editing Oligonucleotides)を用いて、変異遺伝子から転写されたmRNAを正常化させるという技術である(参考)。

・ADARはmRNAに結合してアデノシンをイノシンに変換する酵素で、このイノシンは翻訳の際にグアニンとして扱われるため、Aに変異していてGに戻せば良い場合はADARを用いてmRNAを正常化させることができる。

パイプライン:

QR-110

Centrosomal protein of 290 kDa(CEP290)をコードする遺伝子CEP290のイントロン変異によって起こるスプライシング異常で発症するLeber先天黒内障(LCA10)へのアンチセンスオリゴヌクレオチドによるスプライシング異常の修復(参考)(2018年12月28日Shinさんご指摘により修正)。硝子体内投与。

開発中の適応症

・Phase I/II

QR-421a

網膜にある視細胞における光受容に関わる分子であるusherinをコードする遺伝子USH2Aのexon13の変異によって起こるアッシャー症候群2A型へのアンチセンスオリゴヌクレオチドによるエクソンスキップ療法。硝子体内投与。

開発中の適応症

・IND申請済み(2019年Phase I開始予定)

QR-1123

常染色体優性遺伝性網膜色素変性症におけるP23H遺伝子の変異部分に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド。このアンチセンスオリゴヌクレオチドが変異P23HのmRNAに結合して分解を促進することで、毒性を持つ変異たんぱく質(ロドプシン)の産生を阻害する。Ionis Pharmaceuticalsからの導入品。

開発中の適応症

・IND申請可能段階

常染色体優性遺伝性網膜色素変性症

QR-313

栄養障害型表皮水疱症はVII型コラーゲンをコードする遺伝子COL7A1のexon73の変異によって起こる。QR-313はこのexon 73をスプライシング時にスキップさせるアンチセンスオリゴヌクレオチド(エクソンスキップ療法)。QR-313は水ベースのゲル(ハイドロゲル)で傷害された皮膚に直接塗布される。

開発中の適応症

・Phase I/II

Eluforsen(QR-010)

CFTR遺伝子のF508del変異を持つ嚢胞性線維症に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド。このアンチセンスオリゴヌクレオチドがCFTR mRNAの変異部分であるF508付近に結合することでCFTR分子の機能を回復させる。吸入療法。

開発中の適応症

・Phase I/II

嚢胞性線維症(F508del変異を持つ)

最近のニュース:

ProQRが持つ独自技術Axiomer® technologyを用いた線維症治療法開発のための共同研究契約をGalapagosと締結

コメント:

・RNA編集酵素ADARとCRISPR/dCas13を組み合わせた、遺伝子変異をRNAレベルで修復する方法も開発されてきている(参考)。

・mRNAをターゲットとしているため、核酸医薬品を継続的に投与しないと、効果が持続できない可能性が高い。2017年のNatureに一塩基の変異をゲノム上で修正するbase editingという手法が報告され注目を浴びている(参考)。このような方法が臨床で成功すれば根治が可能となり、継続的な投与は必要なくなるかもしれない。

・眼への直接投与(硝子体内投与)や吸入(経肺投与)、皮膚への塗布(経皮投与)など、核酸医薬品をうまく使うために局所投与可能な疾患を選んでいると見られる(他社との差別化の理由も?)。

キーワード:

・核酸医薬品

・RNA編集酵素

・エクソンスキップ

・眼疾患

・嚢胞性線維症

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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