血中を循環しているセルフリーDNA/RNAをシークエンスすることで、がんを早期に診断できるリキッドバイオプシー技術を開発しているバイオベンチャー。12万人規模の臨床試験を行っている。
ホームページ:https://grail.com/
背景とテクノロジー:
・よく知られていることではあるが一般的にがんは、ステージ後期で発見されるよりもステージ初期で発見された方が予後が良い。そこで、できるだけ早い段階でがんを見つけるための技術開発が進んでいる。
・例えば日立製作所は、尿中のアミノ酸や脂質などの約30種のバイオマーカーの変動から、大腸がんや乳がんを早期診断する技術を開発している(参考)。
・これらの早期診断技術の中で最も注目されているものの一つがリキッドバイオプシーという、血中を循環しているセルフリーDNA/RNAをシークエンス解析し、がん細胞由来DNA/RNAを検出する技術である。
・GRAILは2016年に、世界最大の遺伝子シークエンス解析会社であるイルミナからスピンアウトして作られた会社である。
・GRAILでは、超ディープシークエンス解析という、特定のゲノム領域を複数回、時には何百回、さらには何千回もシーケンスする方法で、血中には非常に量の少ないがん細胞由来のDNA/RNA配列を見つけ出す技術を開発している。
・血中に出てくるがん細胞由来のDNA/RNAの量は極微量である(0.1%未満)。また、がん組織中のがん細胞のDNA/RNAは不均一であることが知られている。そのため血中に存在するがん細胞由来DNA/RNAをシークエンスするのは非常に高い感度のシークエンス技術が必要となる。
・この技術を用いて1万人以上の健常人およびがん患者さんの血中循環セルフリーDNA/RNAをシークエンスして得たビッグデータを機械学習技術で分類することでがんの早期診断を目指している。
・実際にGRAILが公表した途中解析データによると、この技術によって卵巣がん・肝臓がんの患者さんを80%の精度で見分けることができたとしている。
パイプライン(GRAILが実施中の臨床試験):
・The Circulating Cell-Free Genome Atlas Study (CCGA)
15000人の血液循環セルフリーDNA/RNA(加えてがん患者さんはがん組織のDNA)のシークエンス解析試験(内訳は70%が新規にがんと診断された患者さん、30%が健常人)。エンロールされた治験参加者は最低でも5年間の臨床結果を追跡される。さまざまながん種を対象とした治験。
・The STRIVE Study
マンモグラフィー検査をうけた女性の血液を採取し、その血液循環セルフリーDNA/RNAをシークエンス解析する試験。エンロールされた治験参加者は5年間の臨床結果を追跡される。がんと診断された参加者からは組織サンプルも採取する。乳がんを見つけられる機械学習技術の開発を目指している。
最近のニュース:
BMSが自身の臨床結果を解析するためにGRAILの解析ツールを用いる共同研究を行う。R&Dの戦略判断に用いる。
コメント:
・セルフリーDNA/RNAはがんの早期診断だけでなく、患者さんがどの抗がん薬に効果を示すのかを予測する治療効果予測や、耐性遺伝子の発現の早期検出、新たな創薬ターゲット分子探索などに役立つ可能性があり、注目されている。
・血中を循環しているセルフリーDNA/RNAからがん細胞由来のDNA/RNAを見つけ出せることは様々な報告で示されているが、現状ではがん種によって検出感度はかなり異なるようだ。肝臓がんや卵巣がんでは高い精度が出ているが、乳がんでは精度が低いとのこと(参考)。GRAILのSTRIVE studyの結果がどうなるのか注目だ。
・共同研究しているBMS以外にも、Amazonやビル・ゲイツ財団、Merck、セルジーン、Johnson & Johnsonなどが出資している注目ベンチャーである。
キーワード:
・リキッドバイオプシー
・がん早期診断
・シークエンス
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。