他家移植可能な特殊なT細胞を用いて、血液がん・固形がんを対象としたCAR-T療法・TCR-T療法を開発しているバイオベンチャー
ホームページ:https://www.adicetbio.com/
背景とテクノロジー:
・近年、白血病やリンパ腫などの血液がんにおいて、キメラ抗原受容体(CAR)遺伝子を導入、発現させた自己T療法、いわゆるCAR-T療法による劇的な治療効果が臨床で示され、注目を浴びている。
・CAR-T療法は、がん細胞の表面に発現している分子を認識してT細胞が活性化され、がん細胞が除去されるため、細胞膜表面に表出している抗原しかターゲットにできない。一方でT細胞受容体(TCR)は細胞内のたんぱく質の一部を細胞膜表面に輸送し提示することができる。そこで細胞内のがん細胞特異的抗原に対する免疫療法としてはTCR-T療法が試みられている。
・これらのCAR-T療法、TCR-T療法は非常に高い治療効果が期待できる一方で非常に価格が高いことが問題となっている。例えばFDAから承認されたCD19 CAR-T療法であるKymriahは約5000万円、Yescartaは約4000万円もの治療費がかかる。
・CAR-T療法やTCR-T療法が高額となる理由は生きた細胞を用いた治療法であるということが大きいが、患者さん一人ひとりの細胞を採取し、その細胞にCARやTCRをウイルスベクターで発現させ、増殖させる行程に非常に時間とお金がかかる。
・他人の細胞を用いた他家細胞移植ができれば量産化でき、時間とコストを削減することが可能となるのだが、非自己のため免疫反応が起こる。免疫抑制剤を用いてコントロールするのが難しいケースが多い。
・そこで移植した細胞が患者さんの組織を攻撃してしまう移植片対宿主病(GVHD)が発症しないように、移植するT細胞のTCRα鎖の遺伝子を遺伝子編集でノックアウトした細胞が開発され、Cellectisが治験中である(参考)
・Adicet Bioでは上記の方法とは異なり、ヒトの生体内に存在するγδT細胞にCARやTCRを導入することで他家移植可能なCAR-T細胞やTCR-T細胞を作る技術を開発している。
KymriahやYescartaを含めて、ほとんどのCAR-T細胞やTCR-T細胞は、ヒトの身体の中で大多数のT細胞であるαβT細胞(TCRα鎖+β鎖を持つT細胞)から作られる。一方γδT細胞(TCRγ鎖+δ鎖を持つT細胞)は、ヒトの身体の中で数が少ないT細胞である。その役割の多くは分かっていないが、活性化される抗原が見つかっていないことから、他家移植してもGVHDを引き起こしにくいことが示唆されている。
パイプライン:非開示
最近のニュース:
Adicet Bioの持つ他家移植可能な免疫細胞の技術を用いてCAR-T療法やTCR-T療法を開発する共同研究契約をRegeneronと締結。血液がん、固形がんなどを対象。
コメント:
・現在、細胞治療の治験は間葉系幹細胞が多い。これは間葉系幹細胞が他家移植可能であり、自家移植に比べて相対的に安価な治療法を提供できるためである。他家移植可能なCAR-T療法やTCR-T療法ができれば、多くの患者さんに提供できるだろう。
・マウスの実験ではあるが、γδT細胞を用いたCAR-Tは、αβT細胞のそれに比べて効力が低かった。ヒトで同様になるかはまだ分からないが、先行しているαβT細胞を用いたCAR-T療法でさえ、長期においてはある程度の再発が起こることが報告されており、γδT細胞を用いた場合、効力が低い可能性があることは懸念点。
キーワード:
・他家移植細胞療法(CAR-T療法、TCR-T療法)
・γδT細胞
・血液がん
・固形がん
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。