創薬ターゲット分子を見つける独自のバイオインフォマティクス技術を用いて、新たな治療薬創製を目指すイスラエルのバイオベンチャー。がん免疫および自己免疫疾患領域に特化しており、がん免疫療法として臨床入りした抗体医薬品を持っている。
ホームページ:https://www.cgen.com/
背景とテクノロジー:
・創薬ターゲット分子の枯渇が問題となり、その解決法として、オミックス解析、新しいモダリティ、DDSなどが試みられており、バイオインフォマティクスを用いた創薬ターゲット分子探索も行われている(そもそも創薬の歴史の中で、病気に効く薬が偶然見つかってそのメカニズムを探った結果として創薬ターゲット分子が見つかった方が多いのだが)。
・例えば、IBMは自然言語処理技術を持つWatsonを用いて医学論文や発表データを解析し、新しい創薬ターゲット分子や新しい治療法の探索を行っている(うまくいっているのかは不明)。(参考)
・Compugenでは「Predictive Discovery」と名付けたプロセスにおいて、独自の創薬ターゲット分子の同定を行っている。
Predictive Discovery:生物学の知見(論文データベース)、ゲノム&プロテオーム解析、実験データ&疾患データの3つの異なるデータを統合し、コンピューターによるモデル作製、検証、専門家によるレビューの行程を繰り返すことで候補分子を見出す。既知の候補分子が見つかった場合はこのプロセスの妥当性評価として使用し、新規の候補分子が見つかった場合はWetの実験によって検証する。
・Predictive Discoveryのプロセスを回すために独自のバイオインフォマティクスプラットフォームを構築している
①LEADS:包括的なゲノムアノテーション(ゲノム情報に遺伝子と機能を割り当てること)プラットフォーム
ー個々の遺伝子に対して、アンチセンス遺伝子、SNP、splice variant、RNA編集の情報などを集約する。
ー個々のタンパク質に対して、配列相同性、ドメイン情報、細胞内局在、モチーフ(特徴的なアミノ酸配列)の情報を集約する。
②Functional Protein Segments:対象タンパク質内の機能上キーとなる部分や、構造上の役割を明らかにするプラットフォーム
ーアミノ酸配列や3D構造情報を用いて他のタンパク質との結合予測やタンパク質分子内相互作用を予測する。
ータンパク質タンパク質相互作用(PPI)やタンパク質内相互作用を阻害できるペプチドを見出すことができる。
③LINKS:臨床データの統合解析プラットフォーム
ー大量の臨床データから、創薬ターゲット候補分子と疾患との関係を明らかにする。
ー新規の免疫チェックポイント分子の同定に用いられた。
④MED(Mining Expression Data):さまざまな疾患状態の組織から取られた遺伝子の発現情報に関する統合プラットフォーム
ー正常組織、がん組織、薬を投与された患者さん由来組織などの遺伝子発現をマイクロアレイで網羅的解析した公知情報と独自実験結果を検索できる
・Compugenでは、上記のPredictive Discoveryプロセスを用いて、新たな免疫チェックポイント分子の同定を試みた。その結果、既存の免疫チェックポイント分子との類似性からTIGITおよびB7/CD28ファミリーを見出した。TIGITは2009年に別のグループから免疫チェックポイント分子として報告されており、Compugenのバイオインフォマティクスプラットフォームから新規の免疫チェックポイント分子を見いだせることが示された。CompugenではB7/CD28ファミリーの一つであるPVRIG(Poliovirus receptor related immunoglobulin domain containing)を新規に見出した免疫チェックポイント分子として開発を進めた。
パイプライン:
・COM701
免疫チェックポイント分子PVRIGに対する抗体医薬品。T細胞に発現しているPVRIGはがん細胞で発現が高いPVRL2(Poliovirus receptor-related 2)と結合することで免疫抑制に働くため、この経路を阻害することでがん免疫を賦活化する。単独療法とPD-1抗体との併用療法で検討。
開発中の適応症
・Phase I
固形がん
・BAY1905254
ILDR2 (Immunoglobulin-like Domain Containing Receptor 2)に対する抗体医薬品。ILDR2はT細胞活性化のプライミング段階を抑制的に制御する。バイエル薬品との共同開発。
開発中の適応症
・Phase I
固形がん
・COM902
免疫チェックポイント分子TIGITに対する抗体医薬品。T細胞に発現しているTIGIT(T-cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)はがん細胞で発現が高いPVR(poliovirus receptor)/CD155と結合することで免疫抑制に働くため、この経路を阻害することでがん免疫を賦活化する。
開発中の適応症
・IND申請準備段階
固形がん
・ILDR2-Fc
ILDR2のFc融合タンパク質製剤。ILDR2はT細胞活性化のプライミング段階を抑制的に制御する。動物実験において、多発性硬化症、リウマチ、I型糖尿病、乾癬などの自己免疫疾患に対して効果を持つ可能性が示されている。
開発中の適応症
・前臨床研究段階
自己免疫疾患
最近のニュース:
AstraZenecaの研究開発子会社MedImmuneと、Compugenのパイプラインの一つであるがん免疫療法における二重特異性抗体および多重特異性抗体の開発に関するライセンス契約を締結。
コメント:
・リードプログラムであるCOM701については共同開発するパートナー企業を探している模様。
・詳細が分からない(理解できない?)のだが、バイオインフォマティクス創薬を行う会社としてはそれほどユニークなアプローチをとっている感じはしないが、実際に創薬ターゲット分子を見出し自社で臨床開発するところまで整備している会社は数少ない。
・元々はバイオインフォマティクス解析プログラムをNovarisやPfizerなど大手製薬に売る会社だったが、2010年に自ら創薬を行う会社に転換した。
キーワード:
・バイオインフォマティクス
・がん免疫(免疫チェックポイント阻害薬)
・自己免疫疾患
・抗体医薬品
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。