細胞移植時のHLAマッチングや免疫抑制剤使用という拒絶反応への対応策に代わる、根本的な解決策としてHLAをノックアウトした多能性細胞という独自技術を持つ。2018年2月にアステラス製薬に買収され子会社化された。
背景とテクノロジー:
・細胞移植では自身の細胞を使う自家移植は拒絶反応がないため、HLAのマッチングや免疫抑制剤を使う必要はない。しかし自家移植は患者さん一人ひとりから細胞を取得して処理しないといけない個別化医療となるため、時間がかかる上にコストもかさむ(参考)。他人の細胞を使う他家移植は細胞をストックしておくことができ(細胞種によるが)、時間、コストの面で利点は多いが、HLAマッチングや免疫抑制剤の必要がある。
・間葉系幹細胞は例外的に他家移植でも拒絶反応を起こしづらいという特長を持つ(JCRファーマのテムセルは他家の間葉系幹細胞の静脈内投与として日本で初めて承認取得)。このため、細胞治療の中では間葉系幹細胞の臨床応用が一番進んでいる。
・間葉系幹細胞以外でもHLAマッチングなしに他家移植できる細胞ができれば、細胞治療が大きく進む可能性が高い。
・Universal Cellsはアデノ随伴ウイルスベクターを用いて以下4つの遺伝子編集のいくつか(もしくは全て)を組み合わせた多能性幹細胞を作製した。
①β-2ミクログロブリン遺伝子をノックアウト(HLAのクラスI分子の発現を欠失)
②HLA-Eヘビーチェーン遺伝子をノックイン(この分子を持たないと一部の細胞に分化させた際にNK細胞から攻撃されてしまうため)
③転写因子RFXANK をノックアウト(RFXANK はHLAクラスII遺伝子の発現を制御する転写因子)
④Thymidine Kinase遺伝子をノックイン(移植細胞により問題が生じた時にガンシクロビルを用いて移植細胞を選択的に自殺誘導するため)
・これらの遺伝子改変によりHLAマッチングなしに細胞移植できる多能性幹細胞ストックUniversal Donor CellsがUniversal Cell社の独自技術である。
・HLAクラスIもしくはクラスIIを欠損しているという希少な遺伝子変異を持つヒトは、それほど健康に問題があるわけでないため、これらの遺伝子欠損が細胞機能に影響を与える可能性は少ないと考えている。
パイプライン(2017年12月時点):
・内部のプログラム2つ(詳細非開示)
探索段階にある
・Universal T cells
2015年に開始したAdaptimmune社との共同研究。Universal Donor Cellを用いてT細胞を作り、がんへの他家T細胞治療を行うプログラム。現在、非臨床研究段階にある。
・Universal RPE
2016年に開始したヘリオス社との共同研究。Universal Cells社の持つライセンス技術を用いてUniversal Donor iPSCsを作製するプログラム。オプション契約としてUniversal Donor iPSCsを用いたwet/dry型加齢黄斑変性症への臨床応用、ヘリオスの独自技術Organ Bud技術を用いた肝臓および腎臓治療応用の排他的権利も保有。現在、非臨床研究段階にある。
最近のニュース:
「アステラス製薬が既に有する多能性幹細胞から分化した機能細胞を取得する基盤技術と免疫拒絶を抑えた多能性幹細胞を創製するユニバーサルドナー細胞技術とを組み合わせることで、現在治療法が殆どない様々な疾患に対する革新的な細胞医療の研究が加速していくことを期待」
バイエル薬品らによって2016年に設立された大型バイオベンチャーBlueRock TherapeuticsとUniversal Donor iPS細胞の共同研究およびライセンス契約を締結。
コメント:
・他家移植への解決策としては、HLAホモのiPS細胞バンクというアプローチも取られているが、75種程度のHLA型のiPS細胞を作製することで日本人の約80%をカバーできるバンクとなる(参考)。ただ、75種類のHLAのiPS細胞バンクを作るだけでも多くのコストと時間がかかる。Universal Cellsのアプローチは1〜数種類の遺伝子改変細胞で済むためコスト面での優位性は大きい。
・同社ウェブサイトのパイプラインのページは現在リンク切れになっている。アステラス製薬の子会社になったためにパイプライン非開示にしたためと思われる。そのため、上記のパイプラインの説明は2017年12月時点でホームページに掲載されていた情報に基づいている。
・すでにアステラス製薬に買収された会社であり詳細がわからないことが多いが、他家移植の細胞治療の注目技術なため取り上げることにした。
キーワード:
・細胞治療
・他家移植
・HLAマッチング不要
・多能性幹細胞
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。