独自技術を施した腫瘍溶解性ウイルスを開発しているバイオベンチャー。BioSpaceやFierce Biotechから注目ベンチャーとしてピックアップされている。
ホームページ:https://oncorus.com/
背景とテクノロジー:
・オプジーボ(ニボルマブ)などの免疫チェックポイント阻害薬が様々ながんに効果を持つことが明らかになって以降、がん免疫を対象とした治療薬が開発されてきている。
・そんな状況の中で、がん細胞を殺すだけでなく、がん免疫を活性化させる作用も持つ、腫瘍溶解性ウイルスに着目が集まっている。これは、がん細胞に特異的に感染するウイルスを投与することで、がん細胞に感染し、がん細胞の細胞死を引き起こす。細胞死を起こしたがん細胞はマクロファージなどに処理されるが、その際にがん抗原に対する免疫を獲得し、ウイルスの直接的な攻撃以外にも患者さん自身の免疫細胞による攻撃によってがんを治療するというコンセプトである。
・2015年11月、FDAは腫瘍溶解性ウイルスを用いたがん治療薬として初めて、AmgenのT-VEC(商品名:IMLYGIC)を承認した。これは切除不能な転移性メラノーマを適応とし、GM−CSFを搭載した遺伝子組み換え単純ヘルペスウイルス(HSV)である。
・Oncorusではベストインクラスの次世代腫瘍溶解性ウイルスを開発している。これは以下の4つの独自の技術が搭載された単純ヘルペスウイルス(HSV)である:
①γ34.5遺伝子は野生型HSVが持つ遺伝子だが、先行する他社HSVは脳への感染を防ぐ目的でこの遺伝子を欠失させてある。しかしOncorusでは意図的にそのままにしている。これはこのγ34.5遺伝子が存在することにより患者さん体内でのウイルス複製を促進させるためである。
②がん細胞では、とあるmiRNA(miR-X)の発現が低下している。このmiR-Xが結合する遺伝子カセット(miRNA標的配列(miRNA-T)をHSVゲノム中に搭載することで、がん細胞ではカセットにmiR-Xが結合しないために増殖するが、miR-Xが発現する正常細胞でmiRNA-TにmiR-Xが結合しHSVが複製されないようにしている。
③HSVを改変することで最大8つまでの外来性遺伝子を導入できる腫瘍溶解性ウイルス。
④HSVの遺伝子にgain-of-functionの遺伝子変異を入れることで細胞内への取り込み活性を上げたり、がん細胞に対するターゲティング能を持つ腫瘍溶解性ウイルスを作製した。これにより全身投与が可能となる。
パイプライン:
・ONCR-868
腫瘍内に投与する腫瘍溶解性ウイルス(HSV)。
開発中の適応症
・前臨床段階
固形がん
・Systemic Program
全身投与可能な腫瘍溶解性ウイルスの開発プログラム
開発中の適応症
・探索段階
固形がん
コメント:
・HSVの開発では前述のAmgenのT-Vec(FDA承認獲得)以外にもタカラバイオのメラノーマを適応とした野生型HSVが先行している(参考)。東大/第一三共が治験をスタートさせた遺伝子改変型HSVのG47Δ(悪性胸膜中皮腫)もある(参考)状況の中、上記の遺伝子改変でどこまでがん組織選択的な腫瘍溶解性ウイルスなのかが重要な差別化ポイントになると思われる。
・腫瘍溶解性ウイルスを開発している競合他社では免疫チェックポイント阻害薬との併用療法が試みられており、注目を浴びている。今後Oncorusでもそのような試みがあるのだろうか。
・既存治療薬では治療が難しい脳腫瘍に対して静脈投与で治療できる腫瘍溶解性ウイルスができれば有用性は高い(参考)。
キーワード:
・腫瘍溶解性ウイルス
・miRNA
・固形がん
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。