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EIP Pharma (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第65回)ー


アミロイドβ仮説をベースとしないアルツハイマー病治療薬創製を目指すバイオベンチャー。p38MAPKα阻害剤がPhase 2a試験でポジティブな結果となり注目を浴びている。

ホームページ:http://www.eippharma.com/

背景とテクノロジー:

・アルツハイマー病の原因としてアミロイドβ仮説がある。アルツハイマー病の病理所見として、脳内にできる老人斑という凝集体がある。この凝集体の主成分の一つがアミロイドβである。アミロイドβはアミロイド前駆体タンパク質(APP)という分子からプレセニリンというタンパク質切断酵素によって切り出されて形成されるが、APPやプレセニリンの遺伝子に変異を持つヒトはアルツハイマー病に罹患しやすい。

・このアミロイドβ仮説に基づき、アミロイドβの形成に関わる分子、γセクレターゼ(切断酵素の複合体、プレセニリンもこの一部)の阻害剤(GSI)やセクレターゼ活性の調節剤(GSM)、もしくはβセクレターゼの阻害剤(BACEi)などがアルツハイマー病を対象として臨床試験が行われたが、毒性があったり治療効果がなかったりで、今までのところは承認に至っていない。

・アミロイドβそのものをターゲットとした抗アミロイドβ抗体を静脈内に投与して脳内のアミロイドβを除去するアプローチも試みられているが、こちらも現在のところうまくいっていない。そもそも静脈内に投与された抗体が脳内に届くのかという議論はあったが、実際に脳内のアミロイドβの量が減っているということが報告されており、アミロイドβ量を下げることは可能なようだ。類似のアプローチとしてアミロイドβワクチンという方法も臨床で試されたが現在のところ成功例はない。

・そんな状況の中アミロイドβ仮説以外のアプローチに注目が移ってきている。東工大名誉教授大隅良典名誉教授が発見しノーベル賞を受賞したオートファジーの異常という仮説や、脳内炎症仮説(ミクログリアの異常など)が多く報告されている。

・そのようなアミロイドβ仮説以外の仮説が注目を浴びてきているが、古くから知られるアルツハイマー病の脳の病理所見は神経細胞の脱落と、神経細胞間の情報伝達の場「シナプス」の脱落である。これらの脱落の程度は認知機能の低下と相関があることも報告されている。EIP Pharmaはこのシナプスを調節するというメカニズムに着目して創薬を行っている(富士フィルム(富山化学工業)のT-817MAもシナプスの形成を促進する作用がある。現在アルツハイマー病を対象にPhase3治験が進行中である)。

パイプライン:

neflamapimod

p38 mitogen activated protein kinase alpha (p38 MAPKα)阻害剤。p38 MAPKαが過剰に活性化されることでシナプスに障害を起こしているという仮説の基にアルツハイマー病においてp38 MAPKα阻害薬の効果を検証している。

neflamapimodはVertex Pharmaceuticalsがstructure-based drug discovery技術によって見出し、リウマチの治療薬として治験が行われたが失敗している(毒性が強かった)。しかし用量を下げることで毒性は回避できるとEIP Pharmaは考えている(現在のところ強い毒性は報告されていない)。アルツハイマー病を対象としたPhase 2a試験では認知機能、シナプス機能の改善が報告されている。

開発中の適応症

・Phase 2b

アルツハイマー病

最近のニュース:

neflamapimodのPhase 2a試験において3ヶ月の投与でエピソード記憶の改善効果が見られた。

コメント:

・アルツハイマー病の臨床試験ではPhase 2aでも効果が見られてもPhase 2bやPhase 3で効果が見られなかった治験がたくさんあった。neflamapimodについてもまだ楽観はできないが、これまでとは異なるメカニズムの薬が効果を示したというのは非常に興味深い。

・「シナプス機能を改善する」というアプローチはアルツハイマー病治療薬のコンセプトとしては時折見かけるもので珍しいアプローチではない。軽度アルツハイマー病までは可能性があるのかもと思うが、中度以上の場合はもっと根本的な治療法が必要になるのではと個人的には思う。再生医療などに期待している。

キーワード:

・アルツハイマー病

・シナプス機能改善

・p38 MAPKα阻害剤

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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