アルツハイマー病を発症の3−6年前に診断できるツールを開発しているバイオベンチャー。モニター上の画像を追う眼の動きから海馬の健康状態を診断する。
ホームページ:https://neurotrack.com/
背景:
・アルツハイマー病の原因としてアミロイド仮説が提唱され、アミロイドβの脳での形成・蓄積を防いだり、除去することを目的とした化合物が臨床試験で試されたが、そのほとんどが失敗に終わっている。
・一方で、アルツハイマー病の原因に関してはかなりのことが分かってきており、特に症状が出る10年以上前から脳の中で異常が始まっている可能性が示唆されてきている。
・上記のように治療薬開発の失敗が続いていること、病気の原因の解明から、発症を予防するアプローチも選択肢の一つとして着目されてきている。
テクノロジー(製品):
・認知機能診断
海馬の健康状態を眼の動きから診断するツールを開発済みで自宅のPCで5分以内で診察を受けることが出来る。この技術は、自宅PCのカメラで眼の動き(スピード・方向・パターン)をトラッキングする。モニター上の画像をどのように眼で追うのかを測定し、その結果によって診断する。定期的に測ることで、海馬の健康状態(アルツハイマー病に関する認知機能)の変化をモニターできる。エモリー大学アルツハイマー病研究センターのProf. Stuart Zolaらの研究成果をベースとしている。
・認知機能低下の予防
FINGER (The Finnish Geriatric Intervention Study to Prevent Cognitive Impairment and Disability) スタディという1200人の成人を対象とした数年に渡る臨床研究によって、認知機能低下のリスクファクターとして、食事・運動・認知機能トレーニングが認知機能低下を防ぐことが明らかとなった。Neurotrack
社はFINGERスタディの主たる研究者の一人であるカロリンスカ研究所のProf. Miia Kivipeltoとの共同研究により、脳の健康を改善する5つのキー領域に着目した。それは、「運動・食事・睡眠・ストレス・認知機能トレーニング」である。これに基づき、Neurotrack社は生活習慣についてアドバイスし、どのような行動が認知機能に影響を与えるかを追跡している。
最近のニュース:
Neurotrack社がSozo Venturesなど7社から1370万米ドルの出資を受けた。(これ以外にすでに2013年から断続的に計1240万米ドルの出資を6回に分けて受けている)
コメント:
・予防の方はさておき、眼の動きによる認知機能診断は、3−6年前に発症を診断できるということで可能性を感じる。
・「最近のニュース」の欄にも書いたように、このNeurotrack社の事業に対して2013年以降、継続的に多額の資金が投資されており、ある程度の成果があることが期待されているようだ。
・これだけアルツハイマー病治療薬の治験が失敗しているなかで、現状、生活習慣改善による予防くらいしか手がないというのが実情だろう。アメリカでも日本でも「アルツハイマー病 真実と終焉"認知症1150万人"時代の革命的治療プログラム」というDr. Dale Bredesenによる本が売れているくらいである。もちろん、アルツハイマー病を明らかに治せる訳でも、完全に予防できる訳でもないであろう点は理解しておかなければならない。
・確かにこの取り組みは医療とまでは言えないかもしれないが、このようなプログラムに多くの人が参加することでたくさんのデータが集まり、予防薬開発のヒントが得られるかもしれない。
キーワード:
・アルツハイマー病
・診断
・予防
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。