合成致死を引き起こす分子をCRISPRライブラリーで探すことで新規抗がん薬の創製を目指すバイオベンチャー
ホームページ:http://www.reparerx.com/
背景とテクノロジー:
・多くのがん細胞では増殖時のDNA損傷を修復する機構が働かなくなっている。例えばBRCA1/2は乳がん、卵巣がんにおいて変異が見られる遺伝子だが、DNA損傷を修復する役割を持つ。がん細胞ではBRCA1/2が変異して機能が欠失しているので、DNA損傷を修復できない。そのためDNAに変異が起こりやすくなり、増殖を制御する遺伝子に変異が起こることで異常増殖が起こる。ただ、BRCA1/2による修復機構を失ったことで、がん細胞はDNA損傷からの修復を他の修復酵素に依存する必要が生じる(そうでないとがん細胞の生存に必要な遺伝子まで欠失してしまう可能性が高まる)。
・1本鎖DNAの断裂は細胞内の塩基除去修復の過程で起こるが、PARP(Poly (ADP-ribose) polymerase)1という分子はこの1本鎖DNAの断裂を修復する。PARP1阻害剤であるオラパリブはBRCA1/2を欠失する乳がん細胞に作用させると、がん細胞特異的に細胞死を誘導する。一つの修復酵素(この場合PARP1)だけを阻害しただけでは他の修復酵素が代償するため、正常細胞では細胞死を誘導しないが、すでに修復酵素に変異を持つがん細胞に他の修復酵素阻害剤を作用させることで、がん細胞特異的に細胞死を誘導する(合成致死)。
・Repare Therapeutics社ではCRISPRライブラリーを用いて合成致死を引き起こす遺伝子を探索しており、見つかってきた酵素は結晶構造解析やStructure-based Drug Design (SBDD)、バイオインフォマティクス技術などを用いて阻害剤を探索している。
パイプライン:
・PolyQ
PolyQ遺伝子はPolymerase θ(Polyθ)をコードしている。DNA2本鎖切断(DSB)を修復する機能を持つ。DSBは相同組換え、典型的な非相同末端結合もしくは代替的な非相同末端結合(alt-NHEJ)によって修復される。Polyθはこのalt-NHEJによる修復に関与する。Polyθは多くのがん種において発現が上昇している。Polyθの発現上昇が卵巣がんや乳がんにおける治療成績の低下に関与しているとされる。がん細胞のPolyθを阻害するとalt-NHEJは抑制されるが代わりに相同組換えによる修復が活性化する。相同組換えに関与する遺伝子を欠失するがん種においてPolyθ阻害剤は効力を持つことが期待される。
開発中の適応症
・非臨床段階
不明(卵巣がん、乳がん?)
コメント:
・合成致死ではPARP1阻害剤が有名だが、PARP1阻害剤を投与しても効かないBRCA変異をもつ患者さんも多い。また一度効いても変異してPARP1阻害剤が効かなくなってしまうことも多いという。合成致死というコンセプトは面白いが、効果を持つ患者さんの層別化、耐性を持つメカニズムの解明なども重要(参考)。
キーワード:
・合成致死
・DNA修復阻害剤
・乳がん、卵巣がん
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。