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QurAlis (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第57回)


筋萎縮性即索硬化症(ALS)の最近報告されてきている遺伝子解析、病理学的知見を基にALSのプレシジョンメディスンを目指すバイオベンチャー

ホームページ:https://quralis.com/

背景とテクノロジー:

ALSは運動ニューロンの脱落によって起こる病気とされる。対症療法としての治療薬や病気の進行を遅らせることはできる治療薬はある(リルゾール)が、病気を改善させるほどの治療薬はまだない。

・ALSの原因遺伝子としてスーパオキサイドディスミューターゼ(SOD1)やTDP43、C9orf72、optineurin、p62などおよそ30遺伝子が報告されている。例えば、C9orf72の変異は家族性の45%、孤発性の8-10%の患者さんで報告されている。しかし、ほとんどの孤発性の患者さんでは共通する遺伝子変異は未だ見つかっていない。

・C9orf72遺伝子に起こる変異はイントロン内に2アミノ酸(ジペプチド)の繰り返し配列が挿入される変異で、5種類の異なるジペプチド繰り返しタンパク質の発現が報告されている(glycine–alanine (GA), glycine–arginine (GR), proline–arginine (PR), proline–alanine (PA), glycine–proline (GP))。GA, PR, DRのジペプチド繰り返しが特にニューロンへの毒性が強い。これらのジペプチド繰り返しタンパク質は細胞外に分泌され、ALS患者さんの脳脊髄液中で検出される。脳脊髄液中のジペプチド繰り返しタンパク質はALSのバイオマーカーとなりうる。ジペプチド繰り返しタンパク質は脳脊髄液を介して細胞間を伝播する。

パイプライン:

Kv7.2/7.3(過興奮)

ALS患者さん由来のiPS細胞から分化させた運動ニューロンではALS患者さんで見られるのと同様のニューロンの過興奮が見られた。そのニューロンを詳しく調べるとKv7.2/7.3の活性が下がっていた。抗てんかん薬Retigabineを用いてKv7.2/7.3の活性を元に戻すと過興奮が改善し運動ニューロンの細胞死が抑制された(RetigabineはALS患者さんの運動ニューロンの過興奮を抑制できるかP2治験中(参考))。QurAlis社ではRetigabine以上に運動ニューロン特異的にKv7.2/7.3の活性を改善し副作用の少ない低分子化合物の取得を目指している。

開発中の適応症

・非臨床段階

筋萎縮性即索硬化症(ALS)

C9orf72 clear CSF Device

QurAlis社は、脳脊髄液中に存在する毒性を持つジペプチド繰り返しタンパク質を除去する独自技術を開発した。現在はこの技術を使ったカートリッジを開発中である。脳脊髄液中のジペプチド繰り返しタンパク質を除去することでALSの進行を遅くすることが期待される。将来的にALS患者さんの脳脊髄液を灌流し、ジペプチド繰り返しタンパク質を除去するデバイスとする予定。最終ゴールとしてウェアラブルデバイスを目指している。

開発中の適応症

・非臨床段階

筋萎縮性即索硬化症(ALS)

TBK1 autophagy

TBK1はオートファジーの主要な調節分子であるセリン/スレオニンキナーゼ。ALSと前頭側頭型認知症(FTD)患者さんの1-3%においてTBK1変異が報告されている。また、TBK1は同じくALSの原因遺伝子の一つとされるOptineurinやP62をリン酸化する。TBK1に変異が起こるとTBK1の機能が損なわれ、オートファジーを介した不用タンパク質の除去スピードが半分になる。QurAlis社は通常オートファジーを抑制している分子を見出している。この酵素の阻害剤を作ることで、不用タンパク質の除去を正常レベルに戻すことができることが期待される。QurAlis社はStructure-based Drug Design (SBDD)を用いてこの酵素の阻害剤を作ることを目指している。

開発中の適応症

・非臨床段階

筋萎縮性即索硬化症(ALS)

コメント:

・ALSの原因の一つとして、c9ofr72のジペプチド繰り返しタンパク質の報告は非常に興味深い。QurAlis社ではジペプチド繰り返しタンパク質が毒性を持っているのでそれを除去するというスタンスをとっているが、翻訳される前の繰り返し配列RNAが悪さをしているという説もある。

・ALSは最近、原因遺伝子の報告が増えてきており、QurAlis社が目指すようなプレジションメディスンができるかもしれない。武田薬品と提携したWave Life Sciencesもハンチントン病でのプレジションメディスンを目指しており、遅ればせながら中枢神経系疾患にもプレジションメディスンの波が来ている。ただその理由は、中枢神経系疾患の治験成功率の低さだろう。これまで症状からの疾患分類だけで治験を行った結果、多くの中枢神経系疾患治療薬が開発失敗しており、患者さんを層別化することで成功確率を上げたい。たしかに層別化により成功確率は上がるだろうが、問題は層別化によって原因不明に分類されてしまう場合で、この患者さん層が最大となってしまう可能性が高い。それらの患者さんを層別化できるバイオマーカーの開発も進めていく必要がある。

キーワード:

・筋萎縮性即索硬化症(ALS)

・プレシジョンメディスン

・低分子化合物

・メディカルデバイス

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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