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Magenta Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第56回)


造血幹細胞移植治療という現状患者・ドナーに大きな負担のかかる治療に対して、「移植前処置」「ドナーからの幹細胞採取」「移植される細胞数が不十分」「治療後の合併症」という現行治療によくある問題点を解決するための、新しい造血幹細胞移植治療の確立を目指すバイオベンチャー

ホームページ:https://www.magentatx.com/

背景とテクノロジー:

・血液がん(白血病・リンパ腫)や希少遺伝子疾患、自己免疫疾患へは骨髄移植治療が行われるが、リスクが高く、副作用も強い。

・骨髄移植する際には患者さんの骨髄中の造血組織を破壊するために抗がん薬投与と放射線照射を行い、患者さんの造血機能を消失させる。この過程は副作用も強く患者さんへの負担が大きい。

・臍帯血移植は骨髄移植に代わる造血幹細胞移植だが、臍帯血中の造血幹細胞が少なく効果が少ない場合がある。

・骨髄移植では移植する骨髄中幹細胞は、通常麻酔下で骨盤周辺から採取されるが、痛みが強くドナー(もしくは患者さん)の負担が大きい。代替法として成長因子(granulocyte-colony stimulating factor)を用いて骨髄中の造血幹細胞を血中に移動させる方法が取られることがあるが、5日以上と時間がかかる上、十分量の幹細胞が血中に移行しない、副作用などの懸念がある。

パイプライン:

MGTA-456

臍帯血中の造血幹細胞を体外で増殖させるために培地中に入れる低分子化合物。通常の400倍増殖させることが可能。これで増殖させた臍帯血由来増殖幹細胞の移植治療は十分な細胞数に増やすことで移植効果の増強やスピードアップが期待される。Novartisからの導入品。

遺伝子改変を施した造血幹細胞というアプローチも非臨床で開発中(コード名MGTA-E200、詳細は不明)。

開発中の適応症

・Phase 2

MGTA-C100、MGTA-C200、MGTA-C300

MGTA-C100は骨髄移植前に行われる抗がん薬投与と放射線照射の代替となる、造血幹細胞と免疫細胞を認識し殺す抗体薬物複合体。MGTA-C200は造血幹細胞だけ、MGTA-C300は免疫細胞だけを認識し殺す治療。現在の治療法(抗がん薬+放射線治療)よりも高い安全性が期待される。

開発中の適応症

・前臨床段階(数年以内の臨床入りを予定)

血液がん、自己免疫疾患、遺伝性代謝疾患など

MGTA-M100

骨髄中の造血幹細胞を血中に素早く(30分程度)かつ、これまでより大量に移行させることができるケモカインを投与する方法(詳細は不明)。

開発中の適応症

・前臨床段階(数年以内の臨床入りを予定)

血液がん、自己免疫疾患、遺伝性代謝疾患など

最近のニュース:

MGTA-456で増殖させた臍帯血の造血幹細胞を移植した血液がん患者さん18人のPhase2結果。18人とも移植成功。高いOverall Survivalと移植片対宿主病の発生率、病気の再発率の低下(過去データに比べて)が見られている。

コメント:

・造血幹細胞移植は血液がん、自己免疫疾患などに非常に有効な治療法だが、患者さん・ドナーともに非常に負担が大きい。Magenta社が進めている最近の技術を用いた新しい造血幹細胞移植治療が本当に理想通りにうまく行けば、多くの患者さんを救えるかもしれない。

・造血幹細胞移植で治る病気は血液がんや自己免疫疾患、遺伝性代謝疾患だけではなく、広くいろいろな疾患も含まれるとおっしゃるドクターもいる。真偽は不明だが、確かに自己免疫疾患の範疇に入る可能性のあるが、まだ明らかになっていない疾患は他にもある可能性がある。現状の骨髄移植のハードルがそれらの疾患へのを妨げているのかもしれない。Magenta社の取り組みが実用化されれば、造血幹細胞移植がもっと広く行われる可能性はあるかも。

・詳細は不明だが、GVHDなどの移植後の合併症への取り組みも非臨床研究レベルにあるそう(MGTA-G100)。

キーワード:

・造血幹細胞移植治療

・血液がん

・自己免疫疾患

・遺伝性代謝疾患

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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