国内製薬会社の研究所に勤務していた時に思ったのが、
結構転職する人が少ないな―
という感想です。臨床開発とか薬事とかの部署は結構入れ替わりがあって、他社から来た人もたくさんいました。でも研究所は新入社員が入ってくるくらいで、中途採用もあるけど少ないと思います。実際転職しようと思ってもベンチャーはあっても製薬の研究職ってほとんど中途採用の募集してない気がします(特に探索、非臨床薬理、合成系、GLP関連の毒性・薬物動態とかはそれなりにある)。つまり
創薬の初期段階の人材流動性は低い
ということだと思います。まあそういう部署の人たちは40代くらいになれば、他部署に異動になることが多いので、そもそも若い人が多いし、全体の人数も少ないというのもあります。あと、業界再編による合併とかで新薬の研究所を持つ製薬会社の数が減ったというのもあります。でもそれらを差し置いてもやっぱり人材流動性は低いなと思います。
で、製薬研究所の人材流動性が低いとどうなのか?以下の2つの特長が出ると思います。
1.過去の経験が受け継がれやすくなる
新入社員しか入ってこない職場で、創薬経験を持つ人は社歴の長い人たちということになります。社歴の長い人たちは他社でどんな創薬が行われているのかをほとんど知りません。なので自分が先輩から習った創薬をベースに新しい知見を交えつつという形になると思います。こうやって過去の創薬経験が受け継がれて創薬されていきます。10数年前くらいまではこのやり方が一番でした。各社とも薬作りのノウハウを持ち、それを活かして薬が作れていました。しかし、そのノウハウが通用しなくなってきました。最新技術や大学との共同研究を駆使して創薬するのが主流になってきて、過去の創薬経験があまり重要ではなくなってきています。
2.考え方が片寄る
1の裏返しですが、創薬経験を持たない新入社員しか入ってこず、社歴の長い人たちから受け継がれた創薬経験を継承していく形だと、その創薬のやり方しか知らない人たちが多くなります。他社の研究員を多少採用してもマジョリティーは生え抜き社員ばかり。そうなると創薬方法、創薬への考え方が片寄ります。どんなに頭の良い人たちでも異なる様々な視点を持つことは至難の業です。特に日本は同調圧力が強いので、マイノリティーの他社分化を持つ中途採用社員にも自社カラーに染まることを求めます。この状況から考え方が片寄った創薬ばかりになります。1に示すようにそれが良かった時代は良かったのですが、今はそういう方法はうまくいかない時代です。いろいろなアプローチを試す中から新たな薬が作られていく時代です。
で私は以上の2点から、製薬会社研究所の人材流動性の低さが今の生産性の低さを生んでいると思っています。何でも欧米の考え方がいいとは思いませんが、欧米の製薬会社は人材流動性が高く、なかなか会社のカラーを作るのが難しい反面、多様なアプローチを行っていて、それが少なくとも創薬研究においてはそうした方が生産性が高くなっていると思います。
研究所の人材流動性を上げること
これが今、国内の製薬会社に求められることだと思います。参考になれば幸いです。ご質問ご意見はお気軽にkenyoshida36@gmail.comまで。