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効いている理由が不明な脳疾患の薬たち(薬作りの難しさ)


私は脳の病気の治療薬を作ることを目指してて、製薬会社で研究員やってた時もそれを目指して仕事してた訳ですが、脳の病気の治療薬ってほんとに特殊です。何がって、

効いてる理由が不明な薬が多い

ってことです。そんなんでどうやって薬になったんだ?って思われるでしょうが、私も分かりません(笑)。例えば、

・炭酸リチウム(双極性障害)

・エダラボン(筋萎縮性側索硬化症(ALS))←最近FDAから承認!

・クロザピン(難治性統合失調症)

・ケタミン(難治性うつ病)

・メマンチン(アルツハイマー病)

・レベチラセタム(てんかん)

などです。これらの薬のうちの多くは「この薬しか効かない」患者さんがいる、とっても貴重な薬です。効いている理由が不明な以上、似たような薬を作れないから当たり前といえばそうなのですが。

他にもあると思いますが、こういうメカニズムがあいまいな薬は大体の場合、他の疾患の治療薬として臨床現場で使われていたものが、医師によって効いたのが発見されて、薬になったというセレンディピティーな場合が多いと思います。こうなってくると脳の疾患の治療薬を意図的に作るのはとっても難しい。

例えば、アルツハイマー病は発症原因としてアミロイドβが同定され、アミロイドβを除去したり、生成を阻害したりといろいろな薬が治験で試されたけど、今のところその中からは効いているものは出ていない。科学的に原因を追求してアプローチしたものがうまくいかず、よく分からないけど効いたものが多く薬になるっていう状況が未だに続いている。こういうことは脳以外の疾患でも昔はよくあることだったけど、現在は科学的に原因を追求して作った薬がほとんどです。そんな中で脳の疾患だけは相変わらずの状態です。これでは脳の疾患の治療薬から手を引く製薬会社がいるのも仕方がないかなって思います。

じゃあ脳の疾患の治療薬開発を続けている会社がいっぱいあるのはなぜかというと、

当たった時に大きい

からです。脳の疾患の治療薬開発はこんな状況だから承認薬の選択肢は少ないです。当然新薬が出れば使われることが多くなります。アリセプトのエーザイ、エビリファイの大塚、どちらも脳の疾患の薬作りに成功して大きく成長した会社です。一攫千金を夢見るギャンブラーな世界です。一体どうしたら新しい脳の疾患の治療薬は作れるのでしょうか?今のところ誰も答えを持っていないのではと思います。良いアイデアがあったら教えて下さい(^^)。

参考になれば幸いです。ご質問ご意見はお気軽にkenyoshida36@gmail.comまたは下のコメント欄まで。

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