top of page
検索

新しい技術(人工知能、iPS細胞、etc.)の創薬への応用


昨年辺りから人工知能の創薬への応用の話が非常に熱くなってきています。国内の新薬メーカーでも、ほとんどのところが人工知能に取り組んでいるという話を聞きました。私も人工知能の創薬への応用はこれから成果が出てくるだろうなと思い、いろいろ勉強しているところです。その一環で昨年とある学会に参加してきました。その学会には人工知能研究者やバイオインフォマティクス研究者がたくさんいたのですが、人工知能にスポットライトが集まって盛り上がっているんだろうなって思っていったら、そうでもない感じで肩すかしにあいました。いろいろ話を聞いてみると、「確かに人工知能技術が創薬に役立つかもしれない。けど、

”できること”と”できないこと”の区別がついていない話が多い

」という感じでした。その後、私なりにいろいろ勉強してみて思うことは、人工知能技術の創薬応用は思ったより難しいということです。例えば、「人工知能技術を使ってMRI画像やレントゲン画像を診断する」とか「たくさんある公知論文の中から創薬ターゲット候補分子を見つけ出す」とかはすでに報告されてるし、可能だなって思います。でも例えば、「新しい創薬ターゲット候補分子決めたから、過去の情報を参考にして人工知能で阻害剤探しだす」って言うのは、論文情報があれば別だけど、普通には無理で、頑張ってもターゲット候補分子の立体構造を元に、ターゲット候補分子に作用する化合物をデザインするSBDD(Structure-based drug discovery)とかの技術になると思います。

で、今の人工知能技術で出来ることって、断片的にはいろいろ面白いことがあるだろうけど、よくあるのは「過去のデータ、知見を利用した自動分類」とかで、予測も少しはできるけどそんなに予測精度は高くなくて、誤解を恐れずに言ってしまえば、素人がよく理解せずに使っても、

「人工知能使わなくても人間でも分かることじゃない?」

っていうことしか分からないとか、

「精度100%じゃないから、結局確認する実験しないといけないから二度手間だし別に使わなくても」

みたいなことになりがちかなって思います。

iPS細胞も同じことが言えます。よく分からずに患者さん由来iPS細胞で確認します!とかいう実験しても、結局in vivoでどうなるのか予測できないとかいうオチもあり得るツールです(人工知能技術よりは分かりやすいので、そういった素人実験は少ないとは思いますが)。要は、

どんな最新技術でも、技術は技術であり、それに振り回されてはいけない

っていうことです。よく理解せずに使えば、大したことは出来ません。新しい仕事を始める時に技術ありきで始めるべきではないと思います。「人工知能技術を使いたいので、どういう創薬したらいいですか?」とか言う研究員とか、「とにかく人工知能技術使う創薬プロジェクトを作れ!」とか言う研究所長とかは技術に振り回されて、本当に必要なことを見失ってますね。

参考になれば幸いです。ご質問ご意見はお気軽にkenyoshida36@gmail.comまたは下のコメント欄まで。

最新記事

すべて表示

Arkuda Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第143回)ー

ライソゾーム機能の低下と神経変性疾患の関係に着目した創薬を行っているバイオベンチャー ホームページ:https://www.arkudatx.com/ 背景とテクノロジー: ・ライソゾームに局在する酵素の欠失によって起こる病気として遺伝子変異疾患であるライソゾーム病が知られ...

Audentes Therapeutics (San Francisco, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第142回)ー

希少疾患に対してアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療薬の開発を行っているバイオベンチャー。現在課題となっているAAVの大量製造およびヒトへの高濃度投与に関して先行している。2019年12月アステラス製薬による買収が発表された。...

bottom of page