top of page
検索

製薬会社の研究所で働くということ


今回は、製薬会社で研究してたら色々あるよって話です。

大学とか大学院では、誰もが何らかの専門分野の研究をしてますよね。そして会社に入る場合、採用面接では自分の専門分野の話をして、その結果採用された会社に入社します。だから入社したら自分は今までの専門分野を活かして仕事をするんだろうって思われるかもしれませんが、そうとも限りません。もちろん会社が興味を持ってる研究をやってるから採用されて、そのままその仕事を入社しても続けてる人もいます。でも、入社後にやってることは大学・大学院時代とは別のことって人もたくさんいます。つまり、当たり前ですが採用面接で見るのは何が専門なのか?だけではないということです。基本的な資質を見ていることの場合が多いのです。だから「製薬会社に入ったら自分の専門が活かせる」って必ずしもならないってことは想定しておいた方が良いです。ここまでは殆どの人が分かってることと思います。

一方、入社後も同じ専門分野で仕事が出来てる人も、ずっとその状態が続くとは限りません。ここでは生物系を例にして見てみます。入社以来ずっと高血圧治療薬のプロジェクトをやってきた人がいるとします。でも社会情勢を見てみると、この先さらに良い高血圧治療薬が必要とされるかどうかは微妙です。せっかくお金をかけて新しい高血圧治療薬を作っても、今ある薬で十分で売れないかもしれません。そういう場合、会社はあっさりその分野の研究プロジェクトを中止したりします。そして、それまで何年も高血圧治療薬の専門家として頑張ってきた人も他の専門に異動させられたりします(年齢によっては研究所以外への異動も多いですが)。その時に大事なのは

「私の専門は高血圧なんだから循環器以外のことはできません」

とかにならないようにしないといけません。大学では専門分野の仕事がなくなってしまうということはそんなにないと思います(流行遅れで予算がつかないことは多々ありますが)。でも製薬会社では会社の方針次第では新たな専門分野に挑戦しなければいけないことはよくあることです。そうなっても良いように、常に新しい分野に触覚を伸ばし、勉強しておかないといけません。そして、常に新しいことに拒否感を持たない精神を持続しておくべきです。確かにいきなり高血圧治療薬プロジェクトからガン治療薬プロジェクトになったら、戸惑うでしょう。しかし、高血圧で培った研究力は必ず応用できますし、もしかすると高血圧治療薬の分野では当たり前の考え方が、ガンの分野ではそうではなく、そういう考え方でガン治療薬を作れば新しい薬ができる、みたいなことも十分考えられます。本来「博士(Ph.D.)」というのは、どんな分野のことでも科学的には理解して取り組める証明みたいなものだと思います。博士持ってなくても科学者を自認するならそうあるべきです。

製薬会社で働く以上、社会の変化などによって会社の進む方向性が変わることは覚悟しなければいけません。非常に早いスピードで科学が進む現代はなおさらです。自分の専門分野だけ、もっと言えば研究職だけに固執したりしない、柔らかい頭を持つことが重要ですね。

参考になれば幸いです。ご質問ご意見はお気軽にkenyoshida36@gmail.comまで。

最新記事

すべて表示

Arkuda Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第143回)ー

ライソゾーム機能の低下と神経変性疾患の関係に着目した創薬を行っているバイオベンチャー ホームページ:https://www.arkudatx.com/ 背景とテクノロジー: ・ライソゾームに局在する酵素の欠失によって起こる病気として遺伝子変異疾患であるライソゾーム病が知られ...

Audentes Therapeutics (San Francisco, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第142回)ー

希少疾患に対してアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療薬の開発を行っているバイオベンチャー。現在課題となっているAAVの大量製造およびヒトへの高濃度投与に関して先行している。2019年12月アステラス製薬による買収が発表された。...

bottom of page