2010年前後から製薬会社を支える大型医薬品が次々と特許切れして、大変なことになると騒がれました。日本の製薬会社の代表的な例をあげると、
2008年 プログラフ(アステラス製薬)、アムロジン(大日本住友製薬)
2009年 タケプロン(武田薬品)、ハルナール(アステラス製薬)
2010年 アリセプト(エーザイ)、クラビット(第一三共)
2011年 アクトス(武田薬品)
2012年 ブロプレス(武田薬品)
2013年 パリエット(エーザイ)
2015年 エビリファイ(大塚製薬)
2016年 オルメテック(第一三共)
2018年 ベシケア(アステラス製薬)
2019年 ラツーダ(大日本住友製薬)
など、本当に大型医薬品ばかりです。医薬品の特許は通常25年で切れますから、どんなに凄い新薬でもいずれは収益を出せなくなります。特に最近は日本でもジェネリックへの切り替えが促進してますから、特許が切れた途端にかなりジェネリックに切り替えられてしまいます。これによって売上が一気に落ちることが
パテントクリフ(特許の崖)
と呼ばれます。上記の薬の2つを除いて、もう特許切れは過去の話です。でもどこも潰れてないから、
みんな崖から落ちても大丈夫で良かったね―。
ってなってるかというと、、、、
そんな訳無い。
多分どこも過去の貯金を切り崩しながら立て直しに必死な最中です。で、多くは疾患領域の選択と集中とかリストラとか組織再編とか買収とか他社製品導入とか手を打ってますが、根本的な原因、
自社研究所からの薬が作れない
という悩みが解決してないです。
これだけ良い薬をたくさん作ってきた会社がなぜ?
と思いますが、原因は複雑でいろんなことが言われています。私の意見を言わせてもらうと、
これまでの薬の作り方ではもう新薬を生み出せなくなってきてるのに、古い薬の作り方から脱却できていない
からだと思います。そもそも2010年前後の大型医薬品特許切れは、海外の製薬会社も同じ問題を抱えていました。でも多くの海外製薬会社はそれを乗り切っています(買収ばっかりしてるところもありますが)。結局のところ、
創薬のやり方が科学的になってきている
ということに対応できてないんだと思います。意外に思われるかもしれませんが、昔の薬の作り方はそんなに科学的ではありませんでした。
疾患で起こっている現象一つに着目し、実験的にそれを再現して、それを元に戻せる化合物を無作為に取ってくる
簡単に言うとこんな感じが主流でした。そういう方法から最初に挙げたような医薬品が生まれてきました。しかし、みんなで同じやり方を続けてれば、だんだん掘り尽くして枯渇するのは金鉱脈と一緒です。
で、そんな枯渇した金鉱脈に見切りをつけた海外の製薬会社が進めたのが現在の創薬方法です。それは
バリバリの最先端科学
を駆使した創薬方法です。その一例を示します。
患者さんの遺伝子や血液、疾患部位の病理組織などを、最先端機器を用いて網羅的に解析(遺伝子解析、トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析、メタボローム解析など)し、疾患の原因に関わる分子を見つけ出します。そこで見つけ出された分子をコントロールする化合物を見つけ出します。この時も古くからあるランダムスクリーニング法だけでなく、Structure-based drug design(SBDD)、Ligand-based drug design(LBDD)などのタンパク質化学的解析、コンピューターシミレーションを使った方法を用いる場合もあります。こうやって非常に選択性の高い化合物を見つけ出します。化合物よりも選択性・親和性が高い抗体医薬品を作ることも現在の主流です。
このような最先端技術を駆使した創薬が見事にはまったのが、「ガン」と「免疫」の領域です。
このように近年の創薬には最先端科学の粋が結集されている訳ですが、これらは最近になって急速に開発された技術です。日本の製薬会社の多くは、このスピードに乗り遅れました。そして、それだけではなく、こういう技術を導入してもなお、従来の創薬のやり方も捨てられず並行して創薬していました。その結果、さらに対応が遅れました。過去にうまくいったやり方が捨てられなかったのでしょう。
その結果、ガンと免疫の疾患領域で海外の製薬会社がブロックバスターを出す中で出遅れています。
長くなったので続き「じゃあ出遅れた日本の製薬会社はどうしたら良い?」は次回へ。ご質問ご意見はkenyoshida36@gmail.comまたは下のコメント欄まで。