top of page
検索

ブロックバスターのジレンマ(後編)


前回のブログではブロックバスターを出した会社が苦しんでいく過程を見ていきました。今回は

ではなぜブロックバスターを出した会社から、次のブロックバスターが生まれないのか?

について私の思うところを書いていきたいと思います。

まず、そもそも

ブロックバスターはそんなに簡単に作れるもんじゃない

という事実です。当たり前じゃないかと思いますよね。ところが、ブロックバスターの恩恵を受けた人たちは、

自分たちが出せたんだから、また出せる!

と思ってしまうんです。そしてもうひとつ。

ブロックバスターを作った経験を活かせばいい!

とも。確かにブロックバスターを何個も出している会社は世界に存在しています。出せる会社はあります。だから「また出せる!」は間違いじゃない。ただ、

経験を活かす

の方が難しいんだと思います。確かに経験は活かすべき。だけど、論理的に考えて、活かすべき経験と活かすべきでない経験を区別しないといけません。これが難しい。なので大体の場合、盲目的に、

ブロックバスターを作ったやり方は正しい、それ以外は間違ったやり方だ!

となってしまいます。でも私は

科学には正攻法はない

と思います。どんなにうまくいった方法も、何回もうまく行くわけじゃない。でないと一度世界的発見をした人はずっと世界的発見をし続けれるはずです。どんなにすごい人でも次々と世界的発見をしている人はまれです。特に信仰が大好きな人が多い会社の場合、ブロックバスターを作ったやり方は教典となり、それを間違ったやり方とすることは天に唾する行為とされてしまいます。これが定着することが、一度ブロックバスターを出した会社が次を生み出せなくなるジレンマなんじゃないかと思います。

活かせる経験はあると思います。ただ、活かすべきではない経験もある。その取捨選択を論理的に行わないから、経験がうまく活かせていないんだと思います。

新しい創薬のやり方にチャレンジせず、ブロックバスターを作れたやり方に頼ってしまう。普通の世界ではこれが正しいやり方かもしれませんが、科学の分野では違うと私は思います。

リスクをとってこそ道が開けるのが科学

だと思っています。ブロックバスターを作った会社はどうしても守りに入りやすい。経験とはいい言葉ですが、その経験がリスクから逃げる良い口上になってしまう。これがブロックバスターを生み出した会社が陥りやすい罠なんじゃないかなと思います。

ブロックバスターは宝くじ、と冒頭で言いましたが、ある意味麻薬でもあると思います。一度手にすると病みつきになってしまう。それを手に入れるために、そのことしか考えなくなる。しかし、広い視野で見て、自分たちがどうやってブロックバスターを生み出したのか?生み出す前は経験がなかったのに生み出せたのに、なぜ生み出した経験に頼れば生み出せると思うのか?そこを考えないといけないと思います。

多分、日本の製薬会社はまだ未成熟なんだと思います。外国の大手製薬会社は複数のブロックバスターを作ったことで、本当に重要な経験とは何か?が分かってるんだと思います。続けてブロックバスターが生み出せた会社だけが、本当の「道」が見えてくるんじゃないかなと思います。

参考になれば幸いです。ご意見ご感想はkenyoshida36@gmail.comまたは下のコメント欄まで。

最新記事

すべて表示

Arkuda Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第143回)ー

ライソゾーム機能の低下と神経変性疾患の関係に着目した創薬を行っているバイオベンチャー ホームページ:https://www.arkudatx.com/ 背景とテクノロジー: ・ライソゾームに局在する酵素の欠失によって起こる病気として遺伝子変異疾患であるライソゾーム病が知られ...

Audentes Therapeutics (San Francisco, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第142回)ー

希少疾患に対してアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療薬の開発を行っているバイオベンチャー。現在課題となっているAAVの大量製造およびヒトへの高濃度投与に関して先行している。2019年12月アステラス製薬による買収が発表された。...

bottom of page