あなたは宝くじに当たったことはありますか?残念ながら私はないです。しかし、何億円という宝くじに当たった人のうちの多くが、そのお金のせいで人生を狂わせてしまった話はよく聞きます。それがほんとの話なのかどうか、分からないと思っていました。
でも、私は製薬会社に入ってブロックバスターという、ある意味で宝くじに近いようなものを手にした会社を経験して、その怖さを知りました。ちなみにブロックバスターとは製薬業界では「1つの薬で年1000億円以上を売り上げる薬のこと」を呼びます。
ブロックバスターは素晴らしいです。年1000億円の売上が10年くらいに渡って続きます。会社は今までの研究開発への投資分を回収し、貯金(内部留保金)が生まれます。余裕が出て、業績もうなぎのぼりです。株主も大喜び。世間からの評価も上がり、それに関わった研究員は学会などで賞を受賞し、一躍、時の人になれます。直接的にはブロックバスター創出に関与していなかった周りの従業員の人たちも恩恵を受けます。ボーナスが上がり、福利厚生が良くなり、新しい研究所を立てて、最新の機器を買って、営業頑張らなくても薬は飛ぶように売れて、良いことづくめです。
こうなると当然会社は次のブロックバスターが欲しくなります。ブロックバスターの恩恵に浮かれながらも、次もガンバローとなります。こうしてやる気満々の研究員たちは次のブロックバスターは俺が作る!と頑張ります。目の前でブロックバスターが生まれたんですから、自分にもできる可能性があると思うのは当然です。
ところが、これが始めてみると難しい。当たり前です。ブロックバスターは今までにない素晴らしい薬を作ったから、そうなれたんです。それを2個も3個も生み出すのは簡単ではありません。ブロックバスターの特許が有効な間はもがいていても上層部は待ちます。でも特許が切れそうになった(これをパテントクリフ、特許の崖と呼びます)頃くらいから、上層部も慌て始めます。研究所のやり方にも口を出し、いろいろしますが、そんなに簡単に次の薬は生まれてきません。
上層部は仕方なく、次の手を打ちます。買収です。ブロックバスターの売上で溜まったお金(内部留保金)をここで使います。多くの場合、魅力的な開発品(臨床開発中の化合物)を持っている会社を買収し、開発品を手に入れます。というのも、臨床開発の自社スタッフが自社開発品が研究所から上がってこないため、すでに暇になっているからです。で、買収するわけですが、買収が決まった瞬間から買収先の企業の人材流出が始まります。今まで親会社を持たないで独自路線でやってきた会社、しかも買収されるくらいですからそれなりに自社開発品を育ててきている中、突然上層部に違うタイプの人たちが入ってくる訳です。面白く思わない人たちは辞めていってしまいます。買収した会社は開発品を手に入れたのだから満足、、、とも言えません。大体の場合、買収にかかったお金は割高です。今の開発品だけじゃなくて、次の薬も頑張って作って欲しいところですが、優秀な人から居なくなってしまいます。買収に費やしたお金ほどのリターンは望めません。そこで、上層部は自社の研究所に言います。買収した会社とのシナジー効果を出せと。そして研究所の再編が始まります。このところ、日本の製薬会社で起こっていることですね。この再編の結果、どうなっていくのかは今後を見ていくしか分かりません。が、うまく行く会社、行かない会社に真っ二つに分かれていくでしょう。
後編でブロックバスターが生まれない理由について考えていきます。
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