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ターゲット分子決定は難しい


創薬ターゲット分子を決めるのは、創薬プロジェクトの最初のステップですが、ターゲット分子を選ぶ際に気にすることは、

そのターゲット分子を阻害することによる毒性出現

そのターゲット分子を阻害することによる薬効の効力

の2つです。

一つターゲット分子の候補を決めたとして、まず調査することはノックアウトマウスの報告があるかどうかですね。

阻害剤を作るならそのターゲット分子の機能を阻害するということで、ノックアウトマウスはそのターゲット分子だけがない状態なので、状況が近いです。このノックアウトマウスが手に入るなら、このマウスと疾患モデルマウスをmatingして、その結果生まれてきたマウスの解析を行うことで、ターゲット分子のポテンシャルを測ることができます。とっても簡単。ターゲット分子同定なんて余裕だねー。

という訳には大体の場合いきません、残念ながら(笑)。

そんなに簡単に見つかる分子はもうかなり解析が進んでいて、多くの製薬会社も取り組んでいるし、論文報告もあるでしょう。ノックアウトマウス作ったら、まず可能性がある疾患との関係を調べるのは当たり前です。疾患との関係があることが分かった方が論文のインパクトが上がるからです。その辺りは大学の研究者の方々が取り組まれてる分野です。

じゃあどうやって新しいターゲット分子を見つけてくるのか?それが分かれば苦労しないけど(苦笑)。

でもここは私のブログなので、勝手ながら私の意見を書いていきます。

まずノックアウトマウスからの情報は少しずれがあると思います。ノックアウトマウスはその遺伝子が欠損することで、分子が完全に体からなくなっている。それに対して薬はその分子を阻害するだけでターゲット分子の存在を消すわけではない(遺伝子発現抑制とかをする薬は除く)。そして薬はそのターゲット分子の機能の全てを抑制できるとは限らない。多くの場合、機能の一部。最近分かってきていることは、多くの分子はマルチな機能を持ってて、一つの分子=一つの機能じゃない。そして、普通のノックアウトマウスの場合、受精卵の段階から大きくなるまでずっとその分子がない。でも薬は投与されてからしかそのターゲット分子の機能は抑えない。

この辺の違いを考えると、ノックアウトマウスでは胎生致死だったり、強烈な毒性的表現型が出てるからといって、薬のターゲット分子には向いてないとは限らない。だから普通のノックアウトマウスの情報は当てにしない、というのが私の考えです。

じゃあ何を?っていうのですが、それでもやっぱり機能阻害実験の結果でターゲットを同定したいので、コンディショナルノックアウトマウスや、RNAi実験に頼るしかない。ほんとは「望んだタイミングで望んだ機能だけ抑えるような実験手法」が開発されればいいのになと思います。オプトジェネティックスなどのツールが発達してきて、その方向になりつつあるなあと思ってますが、製薬会社の研究は大学よりも遅れる。どうしてかと言うと、大体の技術は特許が取られていて、非営利利用は自由だけど、営利利用は高額になりがち。そうなるとなかなか導入できない。

と話が脱線しましたが、通常のノックアウトマウスの結果ではなく、もっと詳細な解析をしないと、新しいターゲット分子は見つからない時代だということですね。

参考になれば幸いです。ご質問ご意見はお気軽にkenyoshida36@gmail.comか下のコメント欄まで。

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