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治療薬がない疾患領域の薬を作る(非臨床におけるハードル編)


前回の記事、「治療薬がない疾患領域の薬を作る(臨床試験におけるハードル編)」の続きで、今回は「非臨床におけるハードル編」です。

この世の中には薬はいっぱいあるけれど、治療薬がない疾患領域はまだまだたくさんあります。創薬研究者としては、そういう疾患領域の薬を作ることが一番の目標になります。しかし、今まで治療薬が作られていないのには、それなりの理由がある場合が多いです。前回はその臨床試験におけるハードルについて書きました。今回は

非臨床試験(動物、細胞を使った実験)におけるハードル

について書きたいと思います。

まず、治療薬がない疾患の場合、

動物モデルが治療薬探索に最適かどうかが不明

です。例えば遺伝子変異疾患とかで、同じ遺伝子変異を施したモデルマウスを作ったとしても、その動物モデルで効果があるからと言って患者さんで効果を持つかどうかが分からないという問題があります。もちろんすでに承認された薬が効く動物モデルに効くからといって、ヒトでも効くとは限りませんが、その動物モデルがヒトの疾患をある程度模倣しているという仮説は、それなりの説得力を持つ訳です(予測妥当性predictive validityと言います)。

例えば脆弱性X症候群という単一遺伝子変異疾患があるのですが、この疾患は治療薬がありません。動物モデル(Fmr1KOマウス)はあるのですが、このモデルで効果を持った化合物は臨床試験で効果なしでした。

他にも、

どういう薬を作るか?の手がかりがない

という問題もあります。がんだったらがん細胞で高発現する分子から手がかりを得られるし、てんかんだったら神経細胞の過興奮を抑えるような、神経伝達を調節する分子を手がかりにしたらいいとか、着目できるポイントがあります。でも今のところ治療薬がないということは、どこに着目すれば良いのか?が不明です。例えば、ダウン症は21番染色体が通常2本なのか3本ある病気で今のところ治療薬はありませんが、この病気のどこを薬でコントロールしたらいいのか、考えると難しいです。1本だけ染色体を失活させれば?というのがシンプルな考え方ですが、どうやって?X染色体不活性化メカニズムみたいに?とかアイデアは出せますが、薬でコントロールするイメージができません。21番染色体の中の一番影響の大きな遺伝子の発現を制御する薬は?というアイデアも出せますが、一体どれが一番影響の大きな遺伝子なのかが不明です。

こんな感じで治療薬がない疾患領域の薬を作ろうと思ったら、非臨床レベルでもなかなか大変です。でも前回書いた臨床試験のハードルに比べれば、科学の発展で何とかなりそうな気がしますね。こういうハードルに取り組んでいかなければ創薬の未来はなくなってしまいますし、こういうハードルにチャレンジする気概が重要だなって思います

参考になれば幸いです。ご質問ご意見はお気軽にkenyoshida36@gmail.comまたは下のコメント欄へ。

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