新薬を作ることを目指す研究者にとっては、治療薬がない疾患領域の治療薬を作るのは夢であり目標です。もちろん、患者さんも治療薬開発を強く望まれています。でも、今まで治療薬が作られなかったのには何らかの理由がある訳で、それをちゃんと理解した上で取り組まないとのちのち労力が無駄になる可能性があります。
まず考えなきゃいけないのが、
臨床試験が可能かどうか?
ということです。そもそもその疾患がちゃんと臨床試験ができるかどうか?というハードルです。
1.対象疾患の診断は明確か?
対象疾患と類似の疾患がありその区別がつきにくい場合、間違って対象疾患ではない疾患の患者さんに投与してしまうと、その患者さんで薬が効く可能性は低く、臨床試験失敗の原因となりえます。診断技術が確立されていない疾患は対象とするのは難しいです。
2.対象疾患の定量的な診断は可能か?
対象疾患が治ったか治ってないかの2択しか診断できないようなことは少ないかもしれませんが、治癒方向に向かっていることが明確に分かるような、定量的にスコアリングできる診断方法が必要です。疾患の重症度をスコアリングできる方法の中には、客観的な方法がない場合もあります。例えばガンによる痛み(疼痛と呼ばれます)のスコアリング方法は、患者さんの自己申告によって痛みの度合いを測る場合があります。これは良い痛みの診断マーカーがないためで、患者さんの自覚症状を直接測るというのはとてもいいことではあるのですが、プラセボ効果が出やすく、結果がブレやすいという問題点があります。
3.臨床試験の患者さんが集められるか?
臨床試験は一つの病院だけで行われる小規模試験もありますが、薬として承認されるにはある程度の数の患者さんでの効果を示さなければいけません。そのため、複数の病院に臨床試験をお願いする訳です。ただ、特殊な疾患の場合、なかなか患者さんがいませんから、多くの病院に臨床試験のお願いをしなくてはなりません。しかし、臨床試験が実施できる病院は限られています(資金的な問題もあります)。そのため、特殊な疾患では患者さんが集められないという可能性があります。また例えば、脳虚血の細胞死治療薬とかは患者さんを集めるのが困難です。というのも、脳虚血の細胞死は脳梗塞とかの発生直後なので、そのタイミングで投与しないといけません。そういう患者さんが病院に来られるのを待つ臨床試験ってのは現実的には難しいという問題があります。
他にもあるかもしれませんが、このようなハードルが考えられるため、治療薬がない疾患領域の薬を作るのはチャレンジングだと思います。もちろん、チャレンジしないと、ハードルを越えていかないと、治療薬がない疾患領域の薬はいつまで経っても作られません。治療薬がなく苦しんでいる患者さんに薬が届けられるように頑張りたいですね。
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