創薬の現在の主流は分子標的薬。これは低分子であっても一種類の分子にしか作用しない化合物を作るということです。例えば、EGFR阻害剤ならそれ以外のファミリー分子(ErbB2、ErbB3、ErbB4)にさえ作用しない化合物にする。そしてさらに、その化合物に+αで何らかの作用が乗っていることがないものにする。たとえ一見ポジティブになりそうな作用でも(例えば抗酸化作用とか栄養因子的作用とか)。低分子化合物の場合、すでに長く使われているような薬でも、このような全く予期しなかった作用を持っていることがあります。その中には偶然ポジティブに働く効果の場合もありえます。でも、分子標的薬は分かりうる限り、そんな作用さえ排除しようとします。何故か?それは
理解不能に陥る可能性を出来る限り排除するため
です。「この分子にしか作用しない」という化合物が作れれば、非臨床であれ臨床試験であれ、起こる現象は主作用であれ副作用であれ、その分子に関連する現象ということになります。そうすれば、非臨床(動物実験)であればヒトでも同様の結果が起こるかを分子レベルから推測したり、臨床試験であればその分子に作用させた時のヒトにおける反応を明確に知ることができます。
ただ単に薬を作れるか作れないかだけの発想じゃなく、うまく行かなかった時もうまく行った時も、その結果を次に活かすため
に分子標的薬はたくさんの情報をもたらしてくれます。だからこそ、+αの作用が乗っている化合物は排除されるのです。これは非常に論理的です。だから、外国の大手製薬会社の上層部は、疾患と分子の関係についてヒトレベルの情報を相当に持っています(例えばいろいろなガンとチロシンキナーゼの関係とか)。そしてこれはそう簡単には入手できないとても貴重な情報です。すごいことですよね。
日本の製薬会社も大手は同様の方向性で分子標的薬を作っていますが、外国大手に比べると資金力的にも科学レベル的にも厳しい勝負じゃないかなと思います。じゃあどうしたらいいのか?難しい話ですが、私なりの意見はあります。それは次回にでも。
ご質問ご意見はお気軽にkenyoshida36@gmail.comまで。