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実験動物とヒトの違いを意識する(スタチンのケーススタディ)


内資系製薬企業のS社が高脂血症治療薬を作っていた頃、青カビから単離した物質がHMG CoA還元酵素を拮抗阻害することを見つけました。しかし、その後の実験でこの物質が、ラットの血中コレステロールを下げる効果を持たないことが分かり、「これはおかしい」ということで開発が中断されてしまったそうです。しかし担当者の方々はあきらめずに原因を追求し、その結果ラットの血中コレステロールはHDL(高密度リポタンパク質、抗動脈硬化作用を持つ)しかないことが判明しました。HMG CoA還元酵素阻害剤はLDL(低密度リポタンパク質、動脈硬化の原因)を特異的に下げる作用を持つため、HDLしか持たないラットでは血中コレステロール低下作用が見られなかったということです。これらの結果から開発は再開され、この物質は残念ながら開発中止となったが、その活性代謝産物プラバスタチンが動脈硬化治療薬としてブロックバスターとなりました。

このように、実験動物とヒトには違いがあることがあります。まあ、見た目もこんなに違うし、当然と言えば当然ですが。でも私たちはヒトで薬の検証をする前に動物実験でその効果と毒性を検証する必要があり、そこで効果と無毒性が確認されないと臨床試験に進めません。そのため、一生懸命、実験動物(通常はラットやマウス)で効果が出る化合物を探す訳ですが、その際に常に注意しないといけないのが、

果たして「実験動物で効く=ヒトで効く」なのか?

ということなのです。製薬会社の研究員は常に「ヒトで効く」化合物を探さなければいけません。使用している疾患モデルがヒトを反映しているのか?ということを常に考えてモデルを選択したり作ったりしないといけないですし、細胞レベルでの実験でもヒト細胞を使ったり、ヒト配列のタンパク質を発現させないといけません。これまでは株細胞を使う場合、ヒト細胞が使えないこともあったし、疾患の対象となる細胞が株化されていない(できない)場合もあり、四苦八苦してきました。そこに

iPS細胞

という非常に重要な発見があり、ヒトiPS細胞から分化させることで、いろいろなヒト細胞を使うことが可能になりました。さらに患者さんの皮膚細胞から作ったiPS細胞を使うことで、「ヒトで効く」ということへの検証ハードルがかなり下げられました。

製薬会社の薬理部門で仕事をしていると、よく他部署から

「あいつらは動物の薬作ってんじゃね?」

なんて陰口をたたかれて悔しい思いをしていましたが、iPS細胞は薬理研究者にとって福音となる可能性が高いですね。ただ、in vivo(個体レベル)での検証が必要な場合もあり、まだまだ問題はありますが、

iPS由来細胞の3次元培養

とかはその問題の解決策になってくれる可能性があります。本当に技術の発展は素晴らしいですね。

ご質問ご意見はお気軽にkenyoshida36@gmail.comまで。

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