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人工知能の創薬への応用


人工知能技術が大きく進歩してきているみたいですね。囲碁では人工知能AlphaGoが世界トップクラスの棋士に勝ちました。医療の世界でもIBMのWatsonが、最適な治療法を見つけ出し、医師に提案して患者さんの命を救ったというニュースがありました。これらのニュースで驚くのは、

人間が思いつけないようなこと(指し手や治療方法)を人工知能が提案している

ということ。囲碁の場合、AlphaGoの指し手が囲碁の常識を変えるかもしれないとまで言われています。これらの技術の各方面への応用が進められていて、医療や創薬への応用も考えられています。例えば、昨年11月にこんなニュースがありました。

具体的な中身は分かりませんが、創薬に人工知能技術を使うことが進められているようです。実際、製薬企業は化合物スクリーニングなど、大量のデータ(ビッグデータ)が発生する実験を行うことが多く、そのビッグデータをうまく活用できていませんでした。人工知能技術はこのビッグデータを価値あるものに変える可能性があります。

例えば、人工知能の創薬応用の一つにバーチャルスクリーニングという手法があります。通常の方法(バーチャルじゃないスクリーニング法)では、設定された標的分子を阻害する化合物を見つけるため、各製薬会社が独自にもつ化合物ライブラリー(化合物の詰め合わせみたいなもの)をその標的分子と反応させて、見つけてきます。その数は100万化合物とかそれ以上の膨大な量になります。でももちろん、各社が持つ化合物ライブラリーが世の中の全ての考えられる化合物を網羅している訳ではないので漏れがあります。そういう時に、100万化合物の実験結果から、化合物ライブラリーにはない(つまり持ってない)化合物が標的分子を阻害できるかどうかをコンピューターによる計算で知ることができるのがバーチャルスクリーニングという手法です。要は

シュミレーション

です。ただ、その結果精度は持っているデータの量や質にも依存するし、化合物ライブラリーから全然かけ離れた化合物を推測するときは精度が下がる可能性が予想されます。まだまだ問題点はありますが、化学合成が難しい化合物やライブラリーにない化合物についても検証できる方法のため、貴重です。今まで貯めたビッグデータを有効活用できるという利点もあります。そして、こういう手法は薬理的な実験のシュミレーションだけじゃなく、毒性的なものにも使えるし、ヒトの薬物動態をシュミレーションする時にも使うことが進められています。ただ、使う人工知能技術にもよりますが、例えばサポートベクターマシンという方法では計算量が膨大になるので

スーパーコンピューター「京」

を使ったりしているそうです。AlphaGoやWatsonを見ていても、人間には見つけられなかったことが見つけられる可能性が期待できますね。今後こういう技術が発展していくといいなと思います。

参考になれば幸いです。ご質問ご感想はお気軽にkenyoshida36@gmail.comまで。

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