2022年7月9日6 分

Tenaya Therapeutics (South San Francisco, CA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第271回)ー

治療法が限られている重篤な心臓病に対して、遺伝子治療や低分子化合物を用いた治療法を開発しているバイオベンチャー。線維芽細胞から心筋細胞を直接誘導するダイレクトリプログラミング技術の開発も行っている。


 

ホームページ:https://www.tenayatherapeutics.com/


 

背景とテクノロジー:

・世界保健機関(WHO)によると、心血管疾患は世界的な死因の第1位であり、毎年推定1790万人の命を奪っているとされている。高コレステロールなどの基礎疾患を治療する薬はあるが、実際に病気そのものを治療するための薬は少ない。

・今回紹介するTenaya Therapeuticsは、心臓病を対象とした治療法を開発することを目的としており、Tenaya Therapeuticsの独自プラットフォームは、遺伝子治療、低分子化合物、生物製剤など、モダリティにとらわれない方法で、遺伝性・非遺伝性の心臓病のターゲットや治療法を特定するアプローチを取っている。

・Tenaya Therapeuticsは以下の独自プラットフォームを保有している。

医薬品開発能力

製品プラットフォームとパイプラインプログラムをサポートするための中核的な能力を内製化・統合している。これらの能力は、より迅速な製品開発、心臓への正確な治療薬の送達、より効率的でスケーラブルな製品の製造をサポートすることができる。

疾患モデル

独自のin vitroおよびin vivoモデルを作成・統合する能力を研究組織内に蓄積している。in vitro ヒトiPS細胞由来心筋細胞疾患モデルでは、複数の方法を用いてヒト疾患をシミュレートする細胞株で表現型を誘導し、これらのモデルをハイスループットな標的同定と創薬に使用している。また、in vivo疾患モデルについては、in vivo薬理学グループと動物施設を設置し、遺伝性および非遺伝性の約15種類のげっ歯類心臓疾患モデルを確立し、動物の投与、心臓手術、非侵襲的イメージングを使用して開発中の治療法の影響を評価することが可能である。

カプシド工学

アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシド工学の技術を確立し、心臓のさまざまな種類の細胞を標的とする新規AAVカプシドを発見するために、30以上の多様な独自のAAVライブラリから10億以上の変異体を複数のin vitro、in vivo、in silicoモデルでスクリーニングすることに成功している。これらのカプシドは、他の臓器に対してより選択的に心臓を標的とすることができ、また中和抗体に対する感受性が低いなど、望ましい特性を持つように設計されている。

プロモーターと調節因子

遺伝子治療と細胞再生のプログラムをサポートするために、新しいプロモーターと制御エレメントを作製している。これらの技術革新は、現在利用可能な方法と比較して、治療用ペイロード(搭載遺伝子)を心臓の様々な種類の細胞でより正確に、より強固に発現させるために利用している。

薬物送達

AAVベースの治療薬を投与するために、さまざまな投与経路、点滴や注射による方法を積極的に検討している。また、より効率的に心臓に投与できるよう、新しいカテーテルを開発している。

製造

遺伝子治療および細胞再生の製品候補の新たなポートフォリオの生産をサポートするため、心臓遺伝子治療薬製造センターを設立した。この最新鋭の施設は、AAVベースの遺伝子治療薬の規制要件を満たすように設計されており、独自のバキュロウイルスベースの生産プラットフォームとSf9細胞培養システムを利用して、1000Lスケールで現行の適正製造基準(cGMP)の医薬品を生産する初期能力を備えている。また、プロセス開発、分析開発、品質保証、品質管理を含む遺伝子治療製造のあらゆる側面に精通した成長中の社内チームによって運営されている。


 

パイプライン:

TN-201

心筋細胞へのMyosin Binding Protein C3(MYBPC3)の選択的な導入に優れた特性を持つAAVベクター。全身投与。

肥大型心筋症(HCM)の原因となるMYBPC3変異の大部分は、ナンセンス変異、フレームシフト変異、スプライスサイト変異によるトランケーションであり、その結果、HCMが発症する。MYBPC3ハプロ不全症の治療には、不足する遺伝子産物(この場合は野生型MYBPC3)を回復させることが最も明確な道筋である。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

肥大型心筋症

TN-401

デスモソーム遺伝子Plakophilin-2(PKP2)を発現する心臓細胞特異的AAVベクター。

PKP2は、不整脈源性右室心筋症(ARVC)症例の最大45%に関与する最も頻繁に変異する遺伝子である。Pkp2-cKO ARVCマウスを用いた非臨床研究において、Pkp2遺伝子導入により、1)デスモソーム成分の発現を回復、2)右心室リモデリングの予防と回復、3)心室機能の維持と改善、4)心線維化の予防、5)心室性不整脈イベントの頻度と重症度の低下によりマウスの寿命が著しく改善されることが示されている。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

遺伝性不整脈源性右室心筋症

DWORFプログラム

所定のウイルス用量でさまざまな量のDWORF(筋肉に特異的なマイクロペプチド)を発現するように設計された一連のAAVベクター。

心不全では、SERCA(sarco/endoplasmic reticulum calcium-ATPase) の活性低下による細胞内カルシウムのホメオスタシス不全が、心筋の収縮機能不全に重要な役割を果たす。DWORFは、phospholambanなどのSERCA阻害因子を置換することによりSERCA活性を亢進させることが知られている。筋肉特異的なLIMドメインタンパク質(MLP)の遺伝的欠失に起因する、よく特徴付けられた拡張型心筋症マウスモデルにおいて、このAAVベクター投与により収縮機能障害を緩和し、病的リモデリングを減弱させたことを確認している。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

拡張型心筋症

・探索研究段階

駆出率が低下した心不全
 

TN-301

家族性拡張型心筋症のBAG3心筋ノックアウトマウスモデルにおいて、HDAC6阻害剤は、左室駆出率を改善し、寿命を延長させた。また、HDAC6阻害剤は、微小管ネットワークを機械的損傷から保護し、アポトーシスを減少させ、心臓の炎症を減少させることが期待される。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

駆出率が維持された心不全

・探索研究段階

遺伝性拡張型心筋症
 

リプログラミングプログラム

3種のヒト初期化遺伝子とウイルスカプシドを組み合わせた治療法。

3種のヒト初期化遺伝子は、in vitroにおいてヒト心筋線維芽細胞を心筋細胞にリプログラミングすることが示されている。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

心筋梗塞後の心不全


 

コメント:

・心筋細胞は増えることができないので、壊死してしまうと再生することができない。そのため、心臓にある線維芽細胞を心筋細胞に直接転換するダイレクトリプログラミングというアプローチが試みられている。筑波大・家田教授のグループも同様の治療法開発を行っている(参考)。

・重症の心臓病に対する現行治療は非常に限定されており、遺伝子治療などの新しいモダリティによる新規治療法の開発が注目されている。そのため、心筋細胞に特異的に発現できるAAVベクターや発現プロモーターの開発も盛んに行われており、競争の激しい分野である(参考)。


 

キーワード:

・心臓病

・遺伝性疾患

・遺伝子治療(アデノ随伴ウイルスベクター)

・低分子化合物

・ダイレクトリプログラミング


 

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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