2019年8月3日3 分

Numeric Biotech (Rotterdam, the Netherlands) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第124回)ー

老化細胞除去作用を持つペプチドを用いてがん、および加齢性疾患の治療薬開発を目指すバイオベンチャー

ホームページ:http://numericbiotech.com/index.html

背景とテクノロジー:

・細胞老化とは、哺乳類の細胞を培地中で継代培養すると、細胞分裂を繰り返した後、分裂を停止する現象である。ES細胞やiPS細胞、がん細胞を除く、ほとんどの細胞で見られるが、当初はそれほど注目されていなかった。しかし最近の研究により、細胞老化は細胞の分裂回数を制限することで細胞のがん化を防いでいることや,個体老化の原因となっている可能性が示されて、注目されている。

・この細胞老化を起こした細胞は、細胞分裂が停止するだけでなく、炎症性サイトカイン・ケモカイン・細胞外マトリクス分解酵素・増殖因子・エクソソームなど、さまざまな生理活性物質を分泌するsenescence-associated secretary phenotype(SASP)とよばれる現象を起こす。そして、これらの現象が個体の老化および、がん・慢性腎臓病・加齢黄斑変性症・アテローム性動脈硬化症・変形性関節症などの加齢性疾患の原因となっている可能性が示唆されている。

・Numeric Biotechでは、細胞老化した細胞を除去する薬(Senolytics)の開発を進めている。この老化細胞除去薬には、加齢性疾患の治療効果だけでなく、がんや慢性変性疾患の発端を予防する、予防薬としての効果がある可能性が期待される。

・このような細胞老化に着目した他のベンチャーとしては、老化細胞を除去する低分子薬を開発しているUnity Biotechnologyや、リポソームを用いて老化した細胞でアポトーシスを誘導する遺伝子治療薬を開発しているOisín Biotechnologiesなどがある。

パイプライン:

NBT-103(FOXO4-DRI)

FOXO4は、癌抑制遺伝子のひとつp53と結合し、アポトーシスの誘導を阻害する。NBT-103は、FOXO4のp53との結合部位をD-アミノ酸に置換したアミノ酸配列を持つペプチドで、FOXO4-DRI(FOXO4 D-Retro-Inverso)と名付けられた。NBT-103は、p53と競合的に結合し、FOXO4(forkhead box O4)を解離させることで、FOXO4により抑制されていたp53の活性が復活し、細胞にアポトーシスを誘導する。FOXO4は老化細胞において発現が上昇していることが示されており、NBT-103は老化細胞特異的にアポトーシスを誘導することが期待される。

注:NBT-103の適応疾患かどうかは明記されていないが、Numeric Biotechのホームページでは、以下のように記載されている(詳細)。

・がん領域(微小環境改善)

急性骨髄性白血病、頭頸部がん(ヒトパピローマウイルス陰性)、軟部肉腫

・腎臓疾患(線維化減少)

腎移植、慢性腎臓病

・眼疾患

加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症

・神経疾患

アルツハイマー病

コメント:

・2017年3月Cellに報告された研究成果を元に開発している(論文はこちら)。この論文はヒト培養細胞や、モデルマウスの結果をベースとしているが、加齢性疾患や自然老化したヒトの組織サンプルにおいてFOXO4の上昇などは見られるのだろうか?(ちょっと探した限りは見つからず。FOXO3A遺伝子と寿命の関係の報告はあったが)

・ペプチドであるFOXO4-DRIの細胞膜透過性を向上させるためにHIV-TATのペプチド配列を付加している。HIV-TATは免疫不全ウイルス由来で細胞膜に穴を開ける機能を持つ。これ自体に毒性はないのかどうかが気になるところ。この配列を持つ承認薬はあるのだろうか?(NBT-103にこの配列があるのかは不明だが)

・FOXO4はDNA損傷修復に重要な役割があるために、遺伝子発現を抑制することはできないため、p53との結合阻害が良い戦略とのことだ。

キーワード:

・老化細胞の除去

・中分子薬(ペプチド医薬品)

・加齢性疾患

・がん

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

#ベンチャー調査 #研究 #製薬

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