2018年6月16日3 分

Fog Pharma (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第67回)ー

“Drug the undruggable”というフレーズを旗印に、低分子化合物やBiologicsで標的にできないターゲット分子に対する創薬を目指すバイオベンチャー

ホームページ:http://fogpharma.com/

背景とテクノロジー:

・欧米や日本で承認されている医薬品は、ほぼ低分子化合物かBiologics(生物製剤)に分類される。しかし低分子化合物は表面に疎水性のポケットを持つタンパク質しか標的にできず、それはタンパク質全体の10%以下と考えられている。一方でBiologicsは基本的に細胞内に入ることができないため、その標的は全体の10%以下である。全タンパク質のうちおよそ85%が細胞内にあり、疎水性ポケットを持たないと考えられる。これらが”undruggable”なターゲット分子である。

・マルチオミックス解析などによって、疾患と関連する分子がたくさん見つかってきている。しかし多くは”undruggable”なターゲット分子であり、それらを標的とする新しいモダリティが求められている。

Cell-penetrating miniproteins (CPMPs) technology

Fog PharmaのCEOであり創業者であるProf. Gregory Verdine(ハーバード大)のラボで開発された技術である。CPMPはその名の通り、このポリペプチドを付与することで低分子化合物より大きな物質でも細胞内に取り込まれる。

パイプライン:

「β-カテニン」プログラム

 すべてのがんの中のおよそ15%においてβ-カテニンが関与するWntシグナル経路の異常が見られる(ほぼ全ての結腸直腸がん、一部の肝臓がん、乳がん、前立腺がん、子宮体がん、肺がんなど)。β-カテニンは細胞内に存在し、かつ機能を阻害できる疎水ポケットが見つかっていないタンパク質である。Wntシグナル経路のタンパク質であり、β-カテニンの遺伝子変異が起こるとWntシグナル経路が異常活性化される。Fog Pharmaの作るβ-カテニンアンタゴニストはこれらのWntシグナル経路異常によるがんを抑制することが期待される。

「Cbl-b」プログラム

Cbl-b はE3ユビキチンリガーゼの一つであり、チロシンリン酸化により活性化された成長因子受容体をユビキチン化する。それ以外にもT細胞受容体(TCR)のユビキチン化にも関わっている。プログラムの詳細は非開示。プログラムは2018年5月よりスタートしている。

最近のニュース:

With Latest Startup, Harvard’s Verdine Again Aims at Elusive Targets(2016年4月13日)

Fog PharmaのCEO、創業者であるハーバード大のProf. Gregory Verdineへのインタビュー記事。Prof. VerdineはこれまでにWarp Drive BioやWave Life Sciencesなど多くのベンチャーを創業したSerial Entrepreneurである。

コメント:

・CEOのProf. Gregory Verdineのラボからは多くの技術がベンチャーで実用化を試みられている。Aileron Therapeuticsによって現在Phase 2進行中のALRN 6924はp53抑制分子のMDMXとMDM2を阻害することでp53を最活性化させるもので、Verdine Labの技術をベースとして作られた。これ以外にも“Drug the undruggable”を達成するための非常に興味深い技術がVerdine Labにおいて開発されている。数年以内にハーバード大をリタイアされるようだが、まだまだ注目の人物である。

・高分子(抗体など)を細胞内に入れる技術というのは他社でもいろいろな形でアプローチされている。キーポイントはその効率だが、果たしてFog Pharmaの技術はどうなのだろうか?

キーワード:

・がん

・β-カテニン

・DDS

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

#ベンチャー調査 #製薬 #研究

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