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Orna Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第221回)ー


環状RNAという次世代mRNA創薬技術を用いて、in vivo CAR-T療法などの新たな治療法開発を目指すバイオベンチャー


ホームページ:https://www.ornatx.com/


背景とテクノロジー:

・新型コロナウイルス感染症COVID-19のワクチンとして、BioNTech/ファイザーのトジナメラン(製品名コミナティ筋注)、ModernaのModerna COVID‑19 Vaccine、Oxford大/アストラゼネカのCovishield/Vaxzevria、ジョンソン&ジョンソンのJanssen COVID-19 Vaccineなどが各国で承認されている。なかでも、BioNTech/ファイザーとModernaのワクチンは、これまでのところ高い有効性と安全性が報告されている。これら2つのワクチンはSARS-CoV-2スパイクたんぱく質をコードするmRNAを内包した脂質ナノ粒子で作られている(アストラゼネカとジョンソン&ジョンソンのワクチンはスパイクたんぱく質を発現するアデノウイルスベクター)。新型コロナウイルス感染症の流行前は、mRNAを用いた承認薬はなく、その創薬への応用は未知数の部分が多かった。しかし、BioNTech/ファイザーとModernaのmRNAワクチンが承認され、市販後も臨床での高い効果が見られていることからmRNA創薬の発展に注目が集まっている。


・第2世代のmRNA創薬としては自己増殖型mRNAを用いたワクチンの開発が進められている。例えばArcturus Therapeuticsは、この自己増殖型mRNAを用いて、1回投与で十分な効果が期待されるCOVID-19ワクチンなどを開発している。


・今回紹介するOrna Therapeuticsはこれとは異なるアプローチで次世代のmRNA創薬を行っているバイオベンチャーである。Orna Therapeuticsが持つ独自技術であるoRNAプラットフォームは、mRNAを環状化させることで、体内で分解されにくい、翻訳効率を上昇させることができる、mRNAの持つ免疫原性を低下させることができるという優れた特徴を持つ。また、自然免疫反応に対応するために修飾されたヌクレオチドを使用する必要がない。他にも、既存の直鎖状のmRNAに比べて以下の利点がある。

シンプルな製造過程

oRNAは、直鎖状mRNAと異なりキャップ構造やテール構造を持たないため、ワンステップで製造可能で、完全長のmRNA製造が容易である。

優れたたんぱく質発現

環状RNAは、エキソヌクレアーゼによる分解に必要な自由末端を持たないため、いくつかのRNAターンオーバーのメカニズムに耐性があり、直鎖状のmRNAに比べて寿命が長い。oRNAは直鎖状mRNAに比べて細胞内での機能持続性が高く、たんぱく質発現レベルが向上する。投与量あたりのたんぱく質発現量が大幅に増加する。また、独自のIRES技術を用いてたんぱく質の発現を最大化する。

改善された製剤化

oRNAは環状でコンパクトなため、様々な脂質ナノ粒子(LNP)中に簡便にカプセル化することができる。


・また詳細は不明だが、Orna Therapeuticsでは免疫細胞にoRNAを送達する技術を開発しており、oRNAプラットフォームを用いたがん免疫療法、自己免疫疾患治療への応用が期待される。現在の免疫療法の限界を解決するために、キメラ抗原受容体(CAR)を体内の患者の免疫細胞に直接送達する(in situ CAR療法)ために、oRNAプラットフォームを応用できると考えている。また、これ以外にも再生医療、遺伝性疾患など、幅広い分野に応用できる可能性がある。


図  直鎖状RNAから環状RNAを作製する方法(Orna Therapeuticsホームページより。論文報告はこちら。)


・環状RNAは、真核細胞に内在的に存在しており、その数の多さと潜在的な生物学的機能の幅広さから、関心が高まっている。自然界に存在する環状RNAのほとんどは、バックスプライシングによって生成され、ノンコーディングの役割を果たしていると考えられている(バックスプライシングおよび環状RNAの説明はこちらが詳しい)。ショウジョウバエやヒトに内在するcircRNAの中には、たんぱく質をコードするものがあることが明らかになっている。最近のゲノムワイドな解析により、内在性環状RNA の発現量は、mRNA の発現量の 2-4% であると予想されている。


パイプライン:未開示


コメント:

・Taiho Ventures、Bristol Myers Squibb、Astellas Venture Management、Novartis Institutes for Biomedical Researchなど大手製薬会社も出資しており、次世代mRNA創薬に対する注目の高さが伺われる。


・mRNAを環状化し、かつ高い翻訳効率を維持する技術確立にはさまざまな調節が必要だったようだ(こちらの報告を参照)。その点がこの会社の独自性の一つになっているのだろう。


・in vivo CAR-T療法は、実現すれば自家のT細胞で迅速な治療ができるため、非常に有用な技術となるだろう(現状の自家CAR-T療法は、細胞採取からCAR-T細胞作製までに時間がかかるために、その間に患者さんの状況が変わって治療できなくなることが多々ある)。生体内にサイズの大きな遺伝子を安全性高く導入する方法は現状確立されていない。もし環状RNAが、大きなサイズの遺伝子をin vivoでT細胞に高効率かつ細胞選択的に導入可能であれば、in vivo CAR-T療法を実現できるかもしれない。


キーワード:

・mRNA創薬

・環状RNA

・がん免疫療法

・in vivo CAR-T療法


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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