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Cullgen (San Diego, CA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第207回)ー


新規E3ユビキチンリガーゼを標的としたリガーゼリガンドの探索と、その技術を用いたたんぱく質分解誘導薬を創製することで炎症、自己免疫疾患、神経変性疾患、がんの治療薬開発を目指すバイオベンチャー


ホームページ:https://www.cullgen.com/


背景とテクノロジー:

・2014年、サリドマイドの類縁体であるレナリドマイドがE3ユビキチンリガーゼ複合体の構成要素であるCereblonを介して転写因子IKZF1およびIKZF3のユビキチン化とプロテアソームによる分解を亢進し,抗腫瘍効果を発揮することが明らかにされた(論文1論文2)。この前後から、たんぱく質を分解誘導する低分子化合物について数多くの報告がなされ注目を浴びている。


・たんぱく質分解誘導薬は以下の3つのパーツが組み合わされた低分子化合物である。標的たんぱく質とE3ユビキチンリガーゼを近接させることにより、標的たんぱく質のユビキチン化を誘導し、プロテオソームによる標的たんぱく質の選択的分解を引き起こす。

標的結合パーツ

標的たんぱく質と結合するパーツ。従来の低分子化合物のように活性中心に結合する必要がなく、標的たんぱく質のどこかに結合できれば良い

リンカーパーツ

リンカーはさまざまなものが可能だが、標的結合パーツやE3リクルートリガンドパーツのどの部分にリンカーをつなぐか、そしてリンカーの長さをどの程度にするかは現状は実験による検証が必要

E3リクルートリガンドパーツ

E3ユビキチンリガーゼと結合し活性化するパーツ。分解誘導薬の結合相手として最も有効なE3リガーゼとしてはCereblon、cIAP、VHL(Von Hippel Lindau)が現状知られているが、ベストなE3リガーゼはどれかは実験による検証が必要


・この特定の標的たんぱく質の分解を誘導するたんぱく質分解誘導薬は、上記のようにE3リクルートリガンドパーツに結合し利用できるE3リガーゼが限定されている。例えば、たんぱく質分解誘導薬の開発で世界をリードしているArvinasでは、VHL、Cereblon、cIAP、MDM2のリガンド特許を取得済みもしくは取得中である(Arivinasの紹介はこちら)。同様にたんぱく質分解誘導薬の開発を行っているC4 Therapeuticsは、Cereblonに対するE3リクルートリガンドパーツに特化している(C4 Therapeuticsの紹介はこちら)。このように現状のところたんぱく質分解誘導薬が利用できるE3リガーゼは限定されている。


・しかし、このたんぱく質分解誘導薬に対して耐性を持つがん細胞が非臨床研究において見つかってきている。見つかったがん細胞は、たんぱく質分解誘導薬が依存しているE3リガーゼの発現を低回させることで耐性を獲得する。また、標的たんぱく質の中には、VHLやCereblonを用いても効果的に分解されないものもある。


・そこでたんぱく質分解誘導薬が利用できる新たなE3リガーゼおよび、そのE3リクルートリガンドの探索競争が行われている。ヒトにはおよそ600種類以上のE3リガーゼがあると考えられている(参考)。Kymera Therapeuticsは、たんぱく質分解誘導薬に利用できる新規のE3リガーゼ探索を行っている。


・今回紹介するCullgenも新規のE3リガーゼとそのE3リクルートリガンドの探索、開発を行っているバイオベンチャーである。研究開発の約50%は新規E3リガンドの探索を行っており、50%は既存の社内パイプラインである標的型タンパク質分解薬の開発を行っている。すでに、これまでたんぱく質分解誘導薬に利用されていなかったE3リガーゼに結合する複数のリガンドを同定し、これらのリガンドを二機能性分解分子に組み込むことができることを確認している。


・Cullgenは、ubiquitin-mediated, small molecule-induced target elimination technology (uSMITE™)という独自プラットフォームのたんぱく質分解誘導薬技術を保有しており、炎症、自己免疫疾患、神経変性疾患、がんを適応とした創薬を行っている。


・E3リガーゼは、構造的な違いから 大きく以下の三つのグループに分類される:HECT(homologous to E6-AP COOH terminus)型、RING フィンガー型、U ボックス型。CullgenのホームページにはCullin-RINGフィンガー型E3リガーゼの紹介がされており、このタイプのE3リガーゼ複合体に着目して新規E3リガーゼおよびE3リガーゼリガンドの探索を行っていると思われる(Cullgenという社名はCullin-RING E3リガーゼが由来と推測)。なお、E3リガーゼの9割以上がRINGフィンガー型で、VHL、Cereblon、cIAP、MDM2もRINGフィンガー型E3リガーゼ。VHLはelongin B、elongin C、Cullin-2を含むたんぱく質複合体の構成要素、Cereblonはdamaged DNA binding protein 1 (DDB1)、Cullin-4A、regulator of cullins 1 (ROC1)を含むたんぱく質複合体の構成要素である。


パイプライン:詳細未開示

TRKA分解誘導薬?

がん治療の重要なターゲットであるトロポミオシン受容体キナーゼA(TRKA)の強力かつ選択的な分解剤を開発したことを報告している(CG1037、CG1054)。


コメント:

・Cullgenの共同創業者の一人であるIcahn School of Medicine at Mount SinaiのProf. Jian Jinはメディシナルケミストリーの専門家であり、たんぱく質分解誘導薬以外にもGPCRのバイアスドリガンド、ヒストン脱メチル化酵素阻害剤などの研究を行っている。Cullgen創業時点で有望な化合物はすでに複数保有している可能性が高いのではないだろうか。なお、Prof. Jian Jinラボが公表しているたんぱく質分解誘導薬の論文をざっと見た限りでは、VHLやCereblonをターゲットとしたE3リガーゼリガンドしか報告していなかった。


・E3リガーゼを利用したたんぱく質分解誘導薬を作る場合、そのE3リガーゼの細胞内局在を考慮に入れる必要がある可能性がある。例えば、細胞膜上にあるたんぱく質の分解を誘導したいなら、細胞質にあるE3リガーゼよりも、細胞膜に局在しているE3リガーゼを利用した方が分解効率が高いという考え方。たんぱく質は細胞内で棲み分けされており、確かにVHLやCereblonでは分解しにくいたんぱく質も存在する可能性がある。このような視点からも新規のE3リガーゼを標的としたリガンドの探索は重要だろう。


キーワード:

・たんぱく質分解誘導薬

・低分子化合物

・がん


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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