top of page
検索

製薬会社がバイオベンチャーを買収している理由


今年1月の話ですが、武田薬品がアリアドというアメリカの製薬会社を買収しました(詳細はこちらhttp://answers.ten-navi.com/pharmanews/8706/)。買収額は約6300億円。大きなお買い物です。高すぎるって批判も多くでてます(こちらとかhttp://jp.reuters.com/article/ariad-pharm-m-a-breakingviews-idJPKBN14U0FE)。この手の話は別に武田薬品だけに限らず、国内の大手・中堅製薬の多くはみんな似たような感じのM&Aをしてきました(お買い物額はそれぞれですが)。もっと言えば、M&Aは国内製薬だけじゃなくて海外の大手製薬も活発に行っています。多分、製薬業界は他業種に比べてM&Aが多い業界なのではと思います。なぜそんなにM&Aが多いのか?について考えてみました。

1.お金持ってるから

当たり前ですが、M&Aしようと思ったらたくさんキャッシュ(内部留保)持ってるか、資金調達できるアテがないといけません。製薬会社は一つヒット医薬品を出せると、相当にうるおいます。会社に必要な経費を補ってあまりある収益が出るんです。だからまとまったお金が貯まります。貯まったお金を置いておくと、いろいろ批判が出ます。メディアで「製薬会社は儲け過ぎだ!」と叩かれるし、株主からは「株主に還元しろ!(配当金とか自社株買いとか)」とか言われます。そこで貯まったお金の使い道としてM&Aをします。

2.会社の将来が不安だから

一般的にはあまり知られてませんが、製薬会社、もっと言えば新薬メーカー(新薬を専門に作る会社)はギャンブル業種です。当たればフィーバー、外れればすっからかんです。科学的に創薬してはいますが、いろいろな理由で、薬は臨床試験してみないとうまくいくかどうかは分かりません(過去ブログに理由書いてますので探してみて下さい(^^)。そんなギャンブルお父さんも負けが混むと将来が不安になります。家族を支えられるのか?と。だから新薬や開発候補品を持っているバイオベンチャーをM&Aします。負けが混んできたから「一世一代の勝負じゃー!」という感じです。

3.科学技術の進歩が早すぎてついていけてないから

最近の科学はスピードが早くて1社ではすべてをフォローしきれません。抗体医薬品、核酸医薬品、細胞治療、CRISPR、iPS細胞、人工知能創薬、SBDDなどなど。最先端創薬から出遅れた会社は、他社に比べて新薬を作るのに苦労する事になる場合が多いです。挽回するためには最先端のバイオベンチャーをM&Aするしかありません。「出遅れた分は金で解決じゃー」ということです。ガン領域で出遅れた日本の製薬大手はみんなガン領域のバイオベンチャーをM&Aしましたよね。「会社の研究員は何をやっとるんじゃー!」と思われるかもしれませんが、違う疾患領域に乗り出すとか、抗体医薬品に参入するとかは経営判断を伴う話です。違う疾患領域に乗り出すためにはその領域が分かる臨床開発社員、営業社員が必要ですし、抗体医薬品参入とかなれば低分子と全然違う製造方法になるので、製造ラインや分析部門とかとも意思統一が必要です。一研究員ではなかなか判断出来ないレベルの話ということです。「経営陣は何しとるんじゃー!」と矛先を向けれればホッと一息ですが(^^)、経営陣から見れば、あまたある疾患領域、最先端技術の中で一体どれが次に来るのか?はなかなか難しいものです。それを判断するのが経営者ってものと言われれば、反論の余地はありませんが。

4.海外売上比率を上げるため

日本の健康保険財政が厳しい昨今、政府はジェネリック医薬品を推奨しています。新薬メーカーにとっては日本だけで勝負するのは先行きが不安になります。海外の大きな市場、特にアメリカに打って出るためにはすでに現地に開発販売網を持っている会社をM&Aするのが手っ取り早いです。地道に海外支社を作っていくのも一つではありますが、お金あるならえいやーって感じになるところも多いと思います。この場合バイオベンチャーっていうよりは結構規模がある会社をM&Aすることになる場合が多いと思います。日本の会社にありがちですが、海外の会社の従業員をうまくマネージメントできなくて、、、みたいな話は多いみたいですね。

まとめます。上記4つ以外にも各社異なる事情はあるとは思います。大体はこの4つの全部もしくは複数が原因だと思います。2番や3番は結構だめだめな理由だなって思いますが、これが日本の製薬会社が置かれている現状を表しています。どんなバイオベンチャーを買収してるか?でその会社が進みたい方向性や将来性が見えてくることも多いです。

参考になれば幸いです。ご質問ご意見はお気軽にkenyoshida36@gmail.comまたは下のコメント欄まで。

最新記事

すべて表示

Arkuda Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第143回)ー

ライソゾーム機能の低下と神経変性疾患の関係に着目した創薬を行っているバイオベンチャー ホームページ:https://www.arkudatx.com/ 背景とテクノロジー: ・ライソゾームに局在する酵素の欠失によって起こる病気として遺伝子変異疾患であるライソゾーム病が知られ...

Audentes Therapeutics (San Francisco, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第142回)ー

希少疾患に対してアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療薬の開発を行っているバイオベンチャー。現在課題となっているAAVの大量製造およびヒトへの高濃度投与に関して先行している。2019年12月アステラス製薬による買収が発表された。...

bottom of page