以前のブログにも書きました2010年問題(こちら)。2010年前後から製薬会社を支える大型医薬品が次々と特許切れして、大変なことになると騒がれました。こういうブロックバスター製品(年10億ドル以上を売り上げる大型医薬品)が出ると、製薬会社はその後継品を作ろうとします。というのも、ブロックバスターを生み出したことで、社内にはその疾患に関する有形無形の財産がたくさん生まれるため、それを有効利用して2匹目のどじょうを捕まえようと画策するのです。有形無形の財産とは何か?
・ブロックバスターの臨床試験結果
・ブロックバスターの実臨床からのフィードバック情報
(新たな臨床ニーズや、疾患メカニズムに関するユニークな情報)
・ブロックバスターを生み出した研究員・臨床開発社員
・臨床試験をする中で培ったKOL(Key Opinion Leader)とのパイプ
(KOLとは疾患の治療方針やガイドライン作りに関わる医師(大学教授とかが多い))
・ブロックバスターの適応疾患を専門とする営業(MR)社員および営業支援(学術)社員
・ブロックバスターを営業する中で生まれたMRと医師とのコネクション
などです。これらの有形無形財産は疾患が違えばまた異なってくるため、もし違った疾患領域の薬を新たに作る場合、一から作りなおさないといけません。せっかく膨大な時間とお金を費やした結果の財産なのだから有効利用しようとするのは当然のことです。
で、研究所はブロックバスターの後継品を作ることを目指す訳ですが、ブロックバスターはやっぱりすごい良い薬だからこそそうなった訳で、それよりも良い薬を作るのは至難の業です。そもそもブロックバスターで臨床ニーズは満たされてしまって、その疾患では新たなニーズがない場合もあります。そういう中で作られてきた後継品は玉石混交です。素晴らしいケースでは、ブロックバスターが生む次のブロックバスターということになります。そういうケースは良いのです。しかし、多いのはダメダメなケースで、後継品を作ったは良いが、現行薬(ブロックバスターになった薬)に対して大した臨床上の優位性がないものが新薬として出てくるという展開です。これを営業の力で売っていくという力技戦略が行われる訳ですが、新薬として高いにも関わらず、何も良いことがないのは、ひどい話です。でも戦略でうまくやって儲けているのが現状ではと思います。
こんなことする製薬会社は許せない!と思われるかもしれません。大丈夫です。世の中ちょっとずつそういうことは出来なくなってきています。ヨーロッパでは新しい薬は、現行の第一選択薬との差別化が求められ、臨床試験で現行薬との間に臨床上の優位性が示されないと、新薬としての薬価は付けてもらえない制度になっています。この制度では営業の力技で薬を売る戦略は通用しません。まだ日本とアメリカではこれほどの制度はありませんが、両国とも高薬価に頭を悩ませているので、将来的にはヨーロッパの制度と類似した制度が取り入れられていくでしょう。
こんな感じで新薬を作るということはとっても難しくなってきているんです。当たり前の方向に向かっているだけなんですけどね。
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