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Omega Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第238回)ー

更新日:2021年10月24日


ゲノムDNAの3次元構造を改変したり、エンハンサーを調節することで遺伝子発現調節するというユニークなアプローチのmRNA創薬を開発しているバイオベンチャー


ホームページ:https://omegatherapeutics.com/


背景とテクノロジー:

・Omega Therapeuticsは2020年8月16日に紹介している(こちら)が、パイプラインが明らかになってきているので再度紹介することにした。Omega TherapeuticsはゲノムDNAの3次元構造を改変したり、エンハンサーを調節することで遺伝子発現調節するというユニークなアプローチのmRNA創薬を開発しているバイオベンチャーであり、ゲノムDNAの3次元構造についての説明は、当時の記事で紹介している(こちら)。詳細はこちらを参照していただきたいが、ここでは簡単にOmega Therapeuticsの独自技術プラットフォームについて紹介する。


・Omega Therapeuticsが保有する独自プラットフォームであるOMEGA Epigenomic Programming platformは、遺伝子制御と細胞分化のメカニズムであるエピジェネティクスの力を利用することで、遺伝子発現を精密に制御するように設計されている。ヒトゲノムには、Insulated Genomic Domains(IGD)(絶縁ゲノム領域と訳せる?)が存在する(以前の紹介ブログの図2参照)。このIGDは遺伝子制御と細胞分化の基本的な構造と機能の単位であり、生物学の「コントロールルーム」のような役割を果たしている(ヒトゲノム中には約20,000個の遺伝子を包含する15,000個のIGDが存在する)。このIGDによるゲノムの3次元構造は、遺伝子発現のON, OFFを制御していると考えられており、エピゲノムの一つである(DNAの塩基配列を変えることなく、遺伝子のはたらきを決める仕組みをエピジェネティクスという)。


・細胞内の遺伝子発現は、エンハンサー、リプレッサー、プロモーターなど、非常に多様な制御要素によって制御されている。これらの制御要素は、比較的短いDNAの断片であり、たんぱく質転写因子の結合部位として機能し、他のたんぱく質をリクルートして目的の遺伝子の転写を活性化する。現在の研究では、遺伝子とそれに関連する制御要素は、モジュール式にIGD内に存在していることがわかっている。CCCTC結合因子であるCTCFが基底部に固定された染色体ループ構造を持つIGDでは、遺伝子とその制御要素の間の相互作用が、隣接するIGDや外部の制御因子から遮断されている。IGDやその境界に障害が生じると、その中にある1つまたはすべての遺伝子の制御が妨げられ、さまざまな疾患が発生する可能性がある。Omega Therapeuticsのプラットフォームは、IGDが遺伝子とその制御因子を包含する絶縁された「制御ユニット」であるという構造を利用し、この制御異常を修正して病気を治療することを目的としている。


・Omega Therapeuticsでは、IGD内に存在する何千もの新規のDNA配列に基づくエピゲノム「ジップコード」を系統的に同定した。Omega Therapeuticsではこれらのエピゲノムターゲットを「EpiZips」と呼んでいる。Omega Therapeuticsは、EpiZips をターゲットにしてゲノムを精密に制御することで遺伝子発現のON, OFFを制御することを目指している。その制御方法として、モジュール化されプログラム可能なmRNAでコードされたエピジェネティック医薬品(Omega Epigenomic Controllers(OEC)と呼ぶ)を設計・開発している。これにより、遺伝子を希望の発現レベルに正確に調整し、発現期間をコントロールすることができる。このようなアプローチにより、Omega Therapeuticsのプラットフォームは、様々な病気や症状に幅広く適用できる可能性があると考えている。現在、Omega Therapeuticsのパイプラインは、再生医療、免疫学を含む多元的な疾患、がんおよび特定の単一遺伝子変異疾患を対象とした初期段階の前臨床プログラムで構成されている。肝細胞がん、非小細胞肺がん、急性呼吸困難症候群などの様々な疾患モデルにおいて、OECを用いた非臨床試験を実施している。


・以上をまとめるとOmega Therapeuticsは以下の4つの柱となるプラットフォームを保有している。

独自のIGDおよびEpiZipsのデータベース

独自のアルゴリズムと機械学習ツールを用いて、独自のデータベースと公開データベースから、ヒトのIGDの90%以上をカバーする数千の新規DNA配列ベースのエピゲノム標的を同定。

mRNAとしてエンコードされたモジュール式のプログラム可能なエピジェネティック医薬品(OEC)

特定のEpiZipを標的とするDNA結合たんぱく質と、遺伝子の発現をアップまたはダウンレギュレートし、発現期間を制御するエフェクターたんぱく質を備えた、エンジニアリングされたモジュール型のmRNAコード化された医薬品。

カスタマイズされた薬物送達システム(DDS)技術

第三者機関の臨床試験で検証された脂質ナノ粒子デリバリー技術。製剤に関する深い専門知識により、技術的な改善を図り、カスタマイズすることができる。

業界をリードする専門知識

リードプログラムから得られた知見や洞察を成文化し、プラットフォームの最適化を継続し、後続の製品候補の発見と開発に役立てる。EpiZipsとOECの知識バンクを継続的に追加していく。


パイプライン:

OXT-2002

ヒトの癌の50%以上で発現が認められ、予後不良を引き起こす癌遺伝子であるc-Mycの発現を抑制するmRNA医薬品Omega Epigenomic Controllers(OEC)

開発中の適応症

・前臨床研究段階

肝細胞がん


MYC

c-Mycの発現を抑制するmRNA医薬品OEC

開発中の適応症

・非臨床研究段階

非小細胞肺がん


小細胞肺がん(SCLC)

SCLCを対象としたmRNA医薬品OEC。SCLCの90%以上で過剰発現している遺伝子を含むIGDを、独自のアルゴリズムで解析

開発中の適応症

・探索研究段階

小細胞肺がん(SCLC)


HNF4A

転写制御因子であるHNF4aの発現を増加させるmRNA医薬品OEC。HNF4aの発現が持続的に増加することで、生体内の肝組織の状態が大きく改善することを期待。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

慢性肝疾患(CLD)、末期肝疾患(ESLD)


角膜再生プログラム

角膜再生能力の回復のために、糖尿病患者などの細胞増殖抑制に強く関連する遺伝子の発現を制御するmRNA医薬品OEC。糖尿病などで細胞増殖を抑制することが強く示唆されているマスターコントロール遺伝子を含むIGDを発見している。

開発中の適応症

・探索研究段階

角膜再生


CXCL1-8

過剰に発現して炎症を促進するCXCL1、2、3、IL-8遺伝子群の発現を抑制するmRNA医薬品OEC。COVID-19/SAR-CoV-1感染などによる二次的な急性呼吸窮迫症候群(ARDS)患者の予後を改善を期待。

開発中の適応症

・非臨床研究段階


特発性肺線維症(IPF)プログラム

IPFの患者さんに関係する遺伝子の発現を制御して、病気の進行を止めたり、逆転させたり、病気の転帰を改善するためのmRNA医薬品OEC。IPFに関連する遺伝子が、IGD内のさまざまな相互作用や制御要素によって制御されているIGDを特定している。

開発中の適応症

・探索研究段階

特発性肺線維症(IPF)


SFRP1

頭皮や体の毛が抜けることを特徴とする脱毛症において、毛髪の成長を阻害するタンパク質であるSFRP1の発現を低下させるmRNA医薬品OEC。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

脱毛症


コメント:

・パイプラインが明らかとなったが、同様のmRNA医薬品開発を行っている会社とは異なる疾患を対象としており、Omega Therapeuticsのプラットフォームの独自性が垣間見える。

・Insulated Genomic Domains(IGD)を制御することによる疾患治療は独自性があるが、IGD内に制御したくない遺伝子が同居していた場合、副作用が出てしまう可能性があるのでは?と思う。IGD制御に適した疾患を見出すところがキーポイントになるかもしれない。


・ゲノムの3次元構造を変えても遺伝子発現が制御できないという論文も増えてきているが、今のところ、Omega Epigenomic Controllers(OEC)を用いた非臨床研究では遺伝子発現制御が確認できているようだ。今後の報告に注目したい。


キーワード:

・遺伝子発現調節

・インスレーター

・mRNA

・がん

・再生医療


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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