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LOCUS BIOSCIENCES (Morrisville, NC, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第153回)ー


CRISPR/Cas3 × バクテリオファージを用いて特定の細菌を殺す独自技術crPhage™ Technologyを用いた感染症・腸内細菌叢治療薬の開発を行っているバイオベンチャー



ホームページ:https://www.locus-bio.com/



背景とテクノロジー:

・ペニシリンを契機とする数多くの抗生物質の開発により、人類の細菌由来の感染症に対するリスクは減少している。しかし、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や(バンコマイシン耐性腸球菌)VREなど、多剤耐性細菌による感染症が見つかってきている。また結核は未だに発展途上国を中心に発生しているなど、細菌由来の感染症に対する創薬は、今も大きなニーズがある。


・また最近は新たな課題として、腸内細菌叢の乱れによる疾患発症が見つかってきている。例えば、クロストリジウム・ディフィシル感染症は、健常成人の腸内にも存在するクロストリジウム・ディフィシルが、抗菌薬の不適切使用により増殖し、腸炎などを引き起こす疾患である。また、炎症性腸疾患(IBD)、特にクローン病患者さんの腸管粘膜には腸管接着性侵入性大腸菌(AIEC)が存在し、宿主腸管粘膜上皮細胞や免疫細胞に強固に接着・侵入することで炎症を引き起こしていることが報告されている。


ENTEROME Bioscienceは、AIECが腸管粘膜組織内に侵入する際に、腸管壁のCEACAM6やTLR4とAIECのFimHの結合するメカニズムを阻害するEB8018をクローン病治療薬として開発しており、現在Phase II治験が進行中である。


Seres Therapeuticsは、健常人の糞便中の腸内細菌をカプセル化してクロストリジウム・ディフィシル感染症や潰瘍性大腸炎を治療する治療薬SER-109、SER-287(それぞれ)を臨床開発中である。


Vedanta Biosciencesも腸内細菌に着目したバイオベンチャーだが、単一の細菌を移植する方法や、健常人の糞便由来の腸内細菌を移植する方法とは異なり、有用と考えられる細菌を複数種ミックスし、生きた状態でパウダー化した経口投与可能な製剤を用いた治療法を開発している。


・今回紹介するLOCUS BIOSCIENCESはこれらのバイオベンチャーのアプローチとは異なり、CRISPR/Cas3とバクテリオファージを用いて特定の細菌を殺す独自技術crPhage™ Technologyを用いた感染症・腸内細菌叢治療薬の開発を行っている。


・CRISPR/Casシステムはゲノム編集技術として医療応用が進められている(例:Editas MedicineBeam TherapeuticsCRISPR Therapeuticsなど)が、元々は細菌に備わった免疫システムであり、細菌の40%、古細菌の90%がCRISPRを持つことが報告されている。CRISPRは、細菌が外来性遺伝子の侵入を記憶して再感染時に抵抗する細菌の獲得免疫機構であり、ゲノム編集はこの機構を真核生物にうまく応用している(細菌のCRISPRについてはこのpdfを参照)。そこで、このCRISPR/Casシステムを利用して、腸内細菌叢のある特定の細菌/感染症の原因細菌だけを殺す(Cas3によってDNAを切断する)ことで治療に使えないかを検討しているのが、crPhage™ Technologyで、標的細菌にガイドRNA遺伝子(標的細菌の配列)とCas3遺伝子を挿入する方法としてバクテリオファージカクテルを用いている。


・以下のシステムを用いて治療用バクテリオファージの研究開発・製造を行っている

ハイスループットの自動化ファージ探索

 自然界由来のバクテリオファージのライブラリーを用いて、ハイスループットスクリーニング系で標的の細菌に遺伝子を挿入できるバクテリオファージを見つけ出す

次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析

 バクテリオファージや標的細菌のゲノムDNA配列をNGSで読み取ることで、効率的にcrPhageコンストラクトを設計する

独自の予測バイオインフォマティックスアルゴリズムと機械学習を用いたcrPhageのデザイン

CRISPR/Cas3コンストラクトに入れる最も適した配列のデザインを行う

FDA-cGMPとEU GMP Annex 1に対応したバクテリオファージ製造施設

ワクチンと同様の規制方法で、市販できるレベルの製造設備を持っている



パイプライン:

LBP-EC01

尿路感染症を引き起こすE. Coli(大腸菌)を除菌する、CRISPR/Cas3で設計されたバクテリオファージカクテルcrPhage™

開発中の適応症

・Phase I

尿路感染症


尿路感染症プログラム

尿路感染症を引き起こすK. pneumoniae(肺炎桿菌)を除菌する、CRISPR/Cas3で設計されたバクテリオファージカクテルcrPhage™

開発中の適応症

・探索段階

尿路感染症


クロストリジウム・ディフィシル感染症プログラム

腸内細菌叢中のクロストリジウム・ディフィシルを除菌する、CRISPR/Cas3で設計されたバクテリオファージカクテルcrPhage™

開発中の適応症

・前臨床研究段階

再発性のクロストリジウム・ディフィシル感染症


クローン病プログラム

クローン病を引き起こす腸内細菌叢中のAIEC(腸管接着性侵入性大腸菌)を除菌する、CRISPR/Cas3で設計されたバクテリオファージカクテルcrPhage™

開発中の適応症

・前臨床研究段階

クローン病


その他

免疫チェックポイント阻害薬関連感染症に対するcrPhage™(探索段階)

呼吸器感染症に対するcrPhage™(探索段階、Janssen Pharmaceuticalsとの共同販売・臨床開発)



最近のニュース:

呼吸器感染症に対するCRISPR/Cas3で設計されたバクテリオファージカクテルcrPhage™の共同研究・製造・臨床開発・販売に関する契約をJanssen Pharmaceuticalsと締結



コメント:

・バクテリオファージを用いた治療法、ファージセラピーについてはWikipediaを参照。バクテリオファージの利点・欠点が数多く記載されている。以下に一部を抜粋する

「ファージの高い細菌株特異性のため、臨床応用の場で治療に用いるためには、同一の疾患でも、その場その場で異なったファージカクテルを調整しなくてはならない」

「西欧ではファージセラピーのヒトへの使用は承認されていない。一番の問題は、進化能を持つ自己増殖体の使用の安全性を証明することである」


・特定の病原性細菌を殺す方法としてCRISPR/Casとバクテリオファージを用いるのは非常に面白いアプローチで、原因が分かっている感染症に対する治療薬としては有望だと考えられる。多剤耐性菌に対しても応用可能ではと思う。今後の発展として腸内細菌の特定の細菌を殺すことで腸内細菌叢をコントロールするなどのアプローチが考えられるが、こちらはかなり難しそうな気がする。


・細菌を殺すだけでなく細菌に遺伝子導入したりできるため、腸内細菌などの体内の細菌をコントロールする方法(機能を付与したりする)としてバクテリオファージを用いる方法は可能性がありそうな気がする。


・バクテリオファージは植物にも感染するものがあったり、バクテリオファージを用いた治療は他の生物へも応用できそう。バクテリオファージのGMP製造施設とノウハウを持っているのはアドバンテージになるかもしれない。



キーワード:

・CRISPR/Cas技術

・バクテリオファージ(ファージセラピー)

・感染症

・腸内細菌

・合成生物学



免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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