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Kadimastem (Nes-Ziona, Israel) ーケンのバイオベンチャー探索(第234回)ー

更新日:2021年9月12日

ヒトES細胞から分化させたアストロサイトを他家移植するALS治療法や、ヒトES細胞由来のランゲルハンス島細胞をマイクロカプセル化し他家移植する1型糖尿病治療方を開発するバイオベンチャー


ホームページ:https://www.kadimastem.com/


背景とテクノロジー:

・アルツハイマー病やパーキンソン病、筋萎縮性側索効果症(ALS)などの神経変性疾患は、中枢神経系の神経細胞の脱落によって起こる疾患である。中枢神経系の発達期を除くとヒトの神経細胞の増殖は極めて制限されているため、脱落してしまった神経細胞はほとんど補完されない。そのため、症状が進行すると回復するのは困難である。これらの神経変性疾患の治療薬はドネペジル(アルツハイマー病治療薬)、レボドパ(パーキンソン病治療薬)、リルゾールやエダラボン(どちらもALS治療薬)などが承認されているが、これらは対症療法であり、病気の進行を抑制する効果は大きくないと考えられている。

・そのため、神経変性疾患治療薬の開発を目指して様々な試行錯誤がなされている。その一つのアプローチとして、神経変性疾患において異常たんぱく質の蓄積が起こっていることに着目し、異常たんぱく質を除去することで疾患を治療する方法が試みられている。例えば、QurAlisは、ALSにおいてオートファジーの異常が起こっていることに着目し、オートファジーを正常化する治療薬の開発を行っている。Caraway Therapeuticsも、ライソゾーム新生やオートファジーを促進することで異常蓄積物の細胞内クリアランスを導く低分子化合物を用いた神経変性疾患治療薬の開発を行っている。


・細胞製品を用いたALS治療法の開発を行っているバイオベンチャーとしてはBrainStorm Cell Therapeuticsがある。患者さん自身の骨髄から取った間葉系幹細胞に特殊な処理をすることで神経栄養因子の放出能が上がった細胞MSC-NTFを髄腔内投与する治療法である。


・今回紹介するKadimastemも細胞製品を用いてALSなどの神経変性疾患治療を目指すバイオベンチャーである。上記のようにALSにおいては神経細胞の脱落が起こるのだが、その神経細胞の脱落がグリア細胞の一つであるアストロサイトの機能不全によって起こっているという仮設のもと、ヒトES細胞から分化させたアストロサイトの細胞移植によってALSを治療するアプローチである。

・ALSにおけるアストロサイトの機能低下を説明するために、いくつかのメカニズムが提案されている。例えば、炎症性およびアポトーシス促進性のメディエーターの放出、酸化ストレスの誘発、グルタミン酸およびATPを介した興奮毒性の誘発などである。このような観点から、アストロサイトはALSの治療標的として、細胞治療によって有害な活動を抑制したり、運動ニューロンへの栄養補給を回復させたりするアプローチが考えられる。


・Kadimastemの研究者らは、ヒトES細胞由来のアストロサイト(hES-AS)を用いたALSに対する独創的で有望な細胞治療法を開発し報告した(こちら)。著者らは、「若い」アストロサイトをマウスNSGモデル(移植ヒト細胞が生着するための免疫不全モデルマウス)に髄腔内移植したところ、細胞は神経軸全体に分布し、灰白質の細胞微小環境に侵入することなく、中枢神経系実質に近接した軟膜に付着した状態で長期間生存することを示した。移植された細胞は、アストロサイトの表現型と機能を保持しており、望ましくない形質転換や制御されていない増殖もなく、安全だった。これらの知見から、若くて健康なアストロサイトを移植することで、ALSにおける内在性アストロサイトの神経毒性機能を補うことができる可能性を示唆した。詳細な解析から、若いアストロサイトは軸索の成長やニューロンの生存を促進する可溶性因子を分泌していた。これらの因子には、運動軸の再生を促進することが明らかになったオステオポンチン、細胞外マトリックスの分解を防ぐのに重要な役割を果たすMMP9およびその他のマトリックスメタロプロテアーゼの阻害剤であるTIMP-1および2、神経細胞の生存率を高めることが明らかになったCXCl-16ケモカイン、そしてGDNF、BDNF、VEGFなどの栄養因子が含まれる。さらに、アストロサイトは細胞外のグルタミン酸を取り込み、運動ニューロンを酸化ストレスによる損傷から保護する機能を保持していたことを明らかにしている。

・また、本研究の中で、臨床グレードのアストロサイト前駆細胞を大量に生産する方法を開発したことが報告された。この方法では、制御された再現性のある方法で拡張および冷凍保存することができる。ことも示された。


パイプライン:

AstroRx®

in vitroにおいて、ヒトES細胞から神経幹細胞を誘導し、そしてさらに分化させたアストロサイト。髄腔内投与。病気の進行を遅らせ、患者の生活の質と余命を改善することを目指す。

開発中の適応症

・Phase I/IIa

ALS


IsletRx®

1型糖尿病などのインスリン依存性糖尿病の治療のために、in vitroにおいて、ヒトES細胞から分化させた膵臓インスリン分泌ランゲルハンス島細胞。血糖値に応じてインスリンとグルカゴンを産生・分泌する。組み込まれた独自のマイクロカプセル化技術により、膵島細胞を宿主の免疫系から保護し、毒性のある免疫抑制剤を使用することなく、治療効果を持続させることが前臨床試験で実証されている。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

1型糖尿病


最近のニュース:

2012年に開始した幹細胞を用いた創薬スクリーニングの共同研究を進めることを目的とした覚書をMerck Serono と締結。


コメント:

・このKadimastem も「背景とテクノロジー」欄で紹介したBrainStorm Cell Therapeuticsもイスラエルのバイオベンチャーである。イスラエルには細胞治療のバイオベンチャーが多い印象。


・ALSの治療法としてアストロサイトを補充する方法だと神経細胞の脱落を抑制するというコンセプトになるので、発症後早期でないと治療効果は見えにくい可能性が高い。ALSは進行が早いと言われており、有効性を示す可能性がある患者さんをどう選択するかが治験で重要になるかもしれない。


・IsletRx®では独自のマイクロカプセル化技術で免疫系による除去を逃れるとのことだが、補体などからの攻撃も逃れられるのだろうか?免疫から逃れるために細胞をカプセル化する技術は古くから聞くが、どうなのだろうか?


キーワード:

・細胞治療

・ヒトES細胞由来

・アストロサイト

・筋萎縮性側索硬化症(ALS)


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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