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SemaThera (Westmount, Quebec, Canada) ーケンのバイオベンチャー探索(第267回)ー

更新日:2022年6月12日

網膜疾患に特化し、セマフォリンをターゲットとした創薬を行っているバイオベンチャー。2021年にRocheと共同研究契約を締結している。


ホームページ:https://semathera.com/


背景とテクノロジー:

・糖尿病性網膜症(diabetic retinopathy (DR))、未熟児網膜症(retinopathy of prematurity (ROP))、加齢黄斑変性症(age-related macular degeneration (AMD))などの網膜血管障害は、先進国において最も一般的な視力低下の原因となっている。770万人のアメリカ人がDRに、さらに1000万人がAMDに罹患しており、米国で毎年生まれる390万人の乳児のうち、約15000人がROPにある程度罹患していると言われている。AMDでは、脈絡膜の血管が抑制されずに増殖することで、視細胞の障害や視力低下が起こる。ROPやDRなどの虚血性網膜症では、網膜血管の変性に続いて、誤った病的な新生血管が形成される。


・神経-血管および神経-免疫のクロストークは網膜の血管の発達を形成するが、疾病の病因として注目されることは少ない。このクロストークをよりよく理解することで、血管変性および血管増殖性眼疾患に対抗するための新しい薬剤標的が提供されつつある。中枢神経細胞が環境とコミュニケーションをとる仕組みとして、セマフォリンなどの古典的な神経細胞ガイダンスキューを産生することが挙げられる。これらのたんぱく質は、現在では血管新生や炎症などの機能を持つことが広く認められており、その多面的な性質が明らかにされている。


・モントリオールにあるMaisonneuve Rosemont Hospital のProf. Przemyslaw(Mike)Sapiehaの研究室では、10年以上にわたって糖尿病網膜症や糖尿病黄斑浮腫に関する研究を行い、セマフォリンというたんぱく質群、特にセマフォリン3Aがこれらの疾患においてどのような役割を果たすかを解明している。セマフォリン3A(SEMA3A)は、ネズミのモデルにおいて、血管透過性を高め、網膜の炎症を促進するとともに、細胞の老化を促し、網膜血管の再生を阻害することが明らかにされている。


・今回紹介するSemaTheraは、SEMA3Aおよび糖尿病性網膜症に関連するその他のサイトカインを結合・封鎖するように設計された生物学的トラップファミリーを開発したバイオベンチャーである。網膜血管疾患のいくつかの相同モデルを用いた研究により、SemaTheraの生物学的トラップはin vivoでSEMA3Aと結合し中和することで、望ましい生理的再灌流を促進し、網膜血管の漏出を減らし、炎症を抑えることにより、結果として無血管領域を減少させることが示されている。


・血管への影響に加え、SEMA3Aは増殖性網膜症の進行の中心である単核食細胞(ミクログリア/マクロファージ)のような免疫細胞にも影響を及ぼす。DRやROPにおける網膜炎症の原因となるサイトカインはよく知られているが(特にIL-4、IL-6、TNFα)、網膜症におけるニューロン発現SEMA3Aの炎症促進特性は、治療標的としてのユニークな価値を浮き彫りにしている。低酸素状態の網膜神経細胞はSEMA3Aを分泌し、血管新生を促進する単核食細胞を病的な新生血管の部位に引き寄せる。これらの単核食細胞は網膜に浸潤し、ミクログリア表現型をとり、血管の変性とその後の病的血管新生に積極的に関与する。SEMA3Aの治療的阻害は、結果として虚血に起因する網膜の炎症を抑制する。


パイプライン:未開示


最近のニュース:

糖尿病性網膜症およびその他の虚血性網膜疾患の治療を目的としたセマセラ社の有望な新クラスの生物学的製剤の開発に重点を置く、複数年にわたる共同研究およびライセンス契約をRocheと締結


コメント:

・眼疾患の中でも網膜疾患は治療薬が少ない。数少ない治療薬の一つである、血管内皮増殖因子(VEGF)を阻害し、血管新生を抑制するAMD治療薬アフリベルセプト(商品名アイリーア)は2020年世界医薬品売上高の17位に入っていることからも分かるように、網膜疾患は高齢化に伴い患者さんが増加している。また、アフリベルセプトは硝子体内投与という患者さんに負担がかかる眼への注射投与ではあるが、このような投与経路が一般化することによって、高分子、細胞治療、遺伝子治療でのアプローチも可能になり注目されている。これらのことから、網膜疾患に対する治療薬開発は今非常にホットな領域である。


・セマフォリンをターゲットとすることによって、DRやAMDの治療戦略として血管新生の抑制だけでなく、炎症抑制というメカニズムも併せ持つことで、既存のVEGF阻害薬より高い効果を持つ可能性が期待される。


・AMDにはWet型とDry型があり、既存のVEGF阻害薬はWet型にのみ有効であり、Dry型には効果がない。Dry型AMDに対する治療薬が求められているが、SemaTheraのアプローチがDry型に効果を持つかどうかは現状不明である。Dry型AMD治療には炎症抑制が重要であるという報告もあり、可能性はあるかもしれない。


キーワード:

・眼疾患(加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症)

・セマフォリン


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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