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Rome Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第230回)ー

  • 2021年8月15日
  • 読了時間: 4分

更新日:2021年9月5日


ゲノムDNA上の50%以上を占める反復配列由来のノンコーディングRNAが自然免疫の調節に関わっているという知見をベースに、がんおよび自己免疫疾患の治療薬開発を行っているバイオベンチャー


ホームページ:https://rometx.com/home/


背景とテクノロジー:

・ヒトゲノムの中で繰り返し配列は50%以上を占めており、サテライトDNAと呼ばれる反復配列(タンデムリピート)の繰り返しから構成されるノンコーディングDNAは約3%を占めている。反復配列はゲノム中のどこにでもあるものだが、その機能についてはあまり理解されていなかった。サテライトDNAは、セントロメリックおよびペリセントロメリックな遺伝子座を形成し、染色体の構成と分離、動原体の形成、ヘテロクロマチンの制御などに関与していることが明らかになっている。次世代シークエンサー(NGS)の発展により、これまで転写されないと考えられていたこれらのゲノム部位が、染色体やヘテロクロマチンの機能における サテライトDNA の役割に寄与するRNA転写産物を生成する可能性が示された。


・さらに、ヒトのサテライトリピートII(HSATII)とそのマウス版(GSAT)などのペリセントロメリックリピートは、いくつかの上皮性がんで高発現しているが、正常組織では発現していないことが示された。サテライトリピートのうちのいくつかの転写は、ストレスに依存しており、細胞のアポトーシス、分化、老化の際に誘発されることがわかっていたが、HSATIIの転写は、これらの一般的な環境ストレスでは誘導されず、がん細胞を非接着状態で培養したり、マウスの異種移植片として培養すると誘発されることが報告されている。


・また、ヘルペスウイルスに感染した細胞では、HSATIIのRNAが劇的に誘導される。HSATII RNAは、ウイルスタンパク質の効率的な発現と局在化、ウイルスの複製および感染性粒子の放出に重要であることが報告されている。これらのことから、サイトメガロウイルス(ヘルペスウイルスの1種)大腸炎におけるHSATIIの発現増加とウイルスが媒介する病態との関連性が示唆されている。


・多くのサテライトDNA由来のリピートRNAは、ヒトではなく病原体の転写産物に典型的に見られる特定の配列モチーフや一般的なRNA構造を含んでいる。このような病原体の「擬態」は、生得的なパターン認識受容体(PRR)によって検出され、免疫療法やエピジェネティック療法に関連するがん微小環境でのシグナル伝達を開始する。


・上述のように、がん細胞ではサテライトDNA由来のリピートRNAが高発現して自然免疫を惹起しているが、がんはこの自然免疫から逃れるため、リピートRNAを逆転写し自身のゲノムDNAに組み込み、その機能を不活性化すると考えられている(がん細胞のゲノムに挿入されることで、ゲノムDNAの変異を起こしたり染色体の構造変化を誘導することで、がんの増悪化にも関与している可能性がある)。


・これらのようにサテライトDNAから転写されるリピートRNAはがんや免疫において重要な役割を担っていると考えられている。しかしながら、公開されているRNA-seqデータセットの大半は、ポリアデニル化されたRNAの配列に偏っており(つまりmRNA由来の配列であり、ノンコーディングRNA配列の多くは含まれていない)、結果的にPRRを刺激することができる多くの推定上機能的なノンコーディング転写物は含まれていないことが多い。そのため、がん微小環境における異常リピート配列の転写の種類や量や、PRRの関与との関連性は十分に明らかにされていなかった。Icahn School of Medicine at Mount Sinaiの Benjamin D. Greenbaumらは、HSATIIを含むリピート配列由来RNAの発現が自然免疫を調節し、がん微小環境におけるがん免疫を制御している可能性を報告している(参考PDF)。

・今回紹介するRome Therapeuticsは、リピート配列であるサテライトDNAの発現を制御し自然免疫を活性化したり抑制することで、がんや自己免疫疾患のみならず、感染症や神経変性疾患をも含む新たな治療薬開発を目指しているバイオベンチャーである。

パイプライン:詳細未開示


コメント:

・Rome Therapeuticsが着目しているゲノムDNA内の繰り返し配列には、太古の昔にレトロウイルス感染によって組み込まれたDNAも多く含まれている。その一つであるヒト内在性レトロウイルス(HERV)は、多発性硬化症などの自己免疫疾患への関与も報告されてきており、着目されている。

・たんぱく質をコードしているゲノムDNA以外の非コードDNAは、ジャンクDNAと呼ばれて特に役割がないのではと考えられていたが、上記のようにジャンクDNAの中にも役割を持つ分子が産生されている可能性が示されてきている。Rome Therapeuticsではダークマターになぞらえて、ダークゲノムと呼んでいる。


サンガーシークエンスやNGSシークエンスでは、繰り返し配列を正確に読むのはハードルが高かったが、Oxford Nanoporeなどのナノポアシークエンスでは、正確に繰り返し配列を読むことが可能となり、繰り返し配列について詳細な解析を行うことが可能となってきている。今後この領域で新たなことが分かってくる可能性が高いのではと思う。


キーワード:

・非コードRNA

・自然免疫

・繰り返し配列

・がん

・自己免疫疾患


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

 
 
 

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