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NOVAVAX (Gaithersburg, MD, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第226回)ー


新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対するワクチンにおいて、mRNAワクチンに次ぐ有効性90%を治験で示したリコンビナントたんぱく質ワクチンを開発しているバイオベンチャー


ホームページ:https://www.novavax.com/


背景とテクノロジー:

・世界において新型コロナウイルスワクチンの接種が進められている。日本やアメリカにおいて使われているワクチンはファイザー/BioNTechModernaによって開発されたmRNAワクチンであり、臨床試験においてそれぞれ、95 %、94.1 %の有効性(発症予防効果)があることが報告されている。一方でオックスフォード大/AstraZenecaやジョンソン&ジョンソンのアデノウイルスベクターワクチンの有効性(発症予防効果)は、それぞれ76 %、66 %と報告されている(注:ジョンソン&ジョンソンのワクチンは1回投与、日本では未承認)。またアデノウイルスベクターワクチンには血栓ができるという副反応の懸念がある。中国Sinovacの不活性化ワクチンについては、有効性ははっきりしていないが、上記ワクチンほど高くはないと予測されている。以上のことから、現状mRNAワクチンに優位性がある。


・ワクチンの種類とその違いは以下の通り。

mRNAワクチン

SARS-CoV-2のたんぱく質を発現するmRNAを使ったワクチン。多くの場合、SARS-CoV-2の膜表面にあるスパイクたんぱく質を発現する(SARSやMERSのワクチン開発においてスパイクたんぱく質を抗原とするのがよいという先行知見から)。化学修飾や改変したmRNAを用いることで生体内で安定化したり、遺伝子導入効率を上げたりする工夫がされている場合が多い。mRNAは細胞膜を透過して細胞質まで到達すれば発現する(DNAは細胞核まで到達させる必要がある)。安定性、遺伝子導入効率を上げるために脂質ナノ粒子などに封入して投与される。

メリット  mRNAは自然免疫を活性化する作用を持つ。生物製剤ではないために製造が簡便。研究、製造、輸送、保存、投与時に病原性ウイルスそのものを扱う必要がない。

デメリット 実用化されてからの歴史が浅いため、安全性に未知数な部分があるという課題がある。

DNAワクチン

SARS-CoV-2のたんぱく質を発現するDNAを使ったワクチン。多くの場合、SARS-CoV-2の膜表面にあるスパイクたんぱく質を発現する(SARSやMERSのワクチン開発においてスパイクたんぱく質を抗原とするのがよいという先行知見から)。DNAは細胞核まで到達させる必要がある(RNAは細胞膜を透過して細胞質まで到達すれば発現する)。安定性、遺伝子導入効率を上げるために脂質ナノ粒子などに封入するケースも考えられる。

メリット 生物製剤ではないために製造が簡便で大量製造しやすい(ただし承認済みワクチンがないため認可済み製造施設がまだない)。研究、製造、輸送、保存、投与時に病原性ウイルスを扱う必要がない。常温保存可能。

デメリット ワクチンの免疫効果のために特殊な投与デバイスが必要となる。DNAを用いるためゲノムへの挿入リスクはゼロとは言えない。

リコンビナントたんぱく質ワクチン

SARS-CoV-2のたんぱく質を使ったワクチン。多くの場合、SARS-CoV-2の膜表面にあるスパイクたんぱく質を用いる(SARSやMERSのワクチン開発においてスパイクたんぱく質を抗原とするのがよいという先行知見から)。そのままで抗原となる。

メリット リコンビナントたんぱく質ワクチン技術はすでに認可済みの技術・製造設備がある(バキュロウイルスを使ったインフルエンザワクチン、ヒトパピローマウイルスワクチンや、酵母を使ったB型肝炎ウイルスワクチン、ヒトパピローマウイルスワクチン)。研究、製造、輸送、保存、投与時に病原性ウイルスそのものを扱う必要がない。免疫原性を引き起こすアジュバントが使える。

デメリット 正しい立体構造(フォールディング)のたんぱく質か確認が必要。大量製造に手間がかかる。

ウイルスベクターベースワクチン

SARS-CoV-2のたんぱく質を発現するウイルスベクターを使ったワクチン。多くの場合、SARS-CoV-2の膜表面にあるスパイクたんぱく質を発現する(SARSやMERSのワクチン開発においてスパイクたんぱく質を抗原とするのがよいという先行知見から)。

メリット ウイルスベクターベースワクチンはすでに認可済みの技術・製造設備がある(エボラウイルスワクチンのvesicular stomatitis virusベクターのみ)研究、製造、輸送、保存、投与時に病原性ウイルスを扱う必要がない。非臨床試験や臨床試験で非常に有効なデータが出ている。

デメリット ウイルスベクターそのものが抗原となってしまい、ワクチン効果に悪影響がでる可能性がある。血栓などの副反応報告が出ている。

弱毒化ワクチン

SARS-CoV-2の弱毒株そのものを使ったワクチン(参考)。

メリット ポリオワクチンなどですでに広く使われている方法であり、進め方が確立している。すでにある製造設備を流用可能である。

デメリット 弱毒株のクローン化が必要で、非常に手間と時間がかかる。ウイルスの増やし方が確立していない。安全性に関する試験の要求度が高くなる。

不活性化ワクチン

SARS-CoV-2を殺して毒性をなくしたワクチン(参考)。

メリット インフルエンザワクチンなどですでに広く使われている方法であり、進め方が確立している。すでにある製造設備を流用可能である。アジュバントを用いて免疫原性を上昇させることができる。SARS-CoV-1ウイルス(いわゆるSARSウイルス)のワクチンとしてすでにヒトで試されたことがある。

デメリット 製造時に病原性のウイルスを大量に扱う必要がありリスクがある。不活性処理により抗原性が変わっていないか(抗原たんぱく質の立体構造が変わってしまっていないか)確認する必要がある。


・今回紹介するNOVAVAXは、リコンビナントたんぱく質ワクチン技術を持つバイオベンチャーで、新型コロナウイルスSARS-CoV-2のワクチンで有効性(発症予防効果)90.4 %の結果を報告している。この新型コロナウイルスワクチンは、米国政府主導のプログラムOperation Warp Speedに採択され、開発のための資金提供をうけている。


・NOVAVAXのリコンビナントたんぱく質ワクチンは、Sf9細胞/バキュロウイルスを用いてたんぱく質を作る。このたんぱく質はポリソルベートベースのコアの周りにセルフアセンブリ−(自己集合化)によって多量体形成することで、ウイルス様の球体構造となる。NOVAVAXはこれをナノ粒子と呼び、このナノ粒子の外側に抗原(SARS-CoV-2の場合はスパイクたんぱく質)が露出するような構造体を形成させる。


・mRNAワクチンと異なり、リコンビナントたんぱく質には自然免疫を惹起するアジュバントとしての機能はないため、NOVAVAXは独自技術としてMatrix-M™アジュバントを保有している。Matrix-M™は、Quillaja saponaria Molinaの樹皮から抽出したサポニンに由来する40ナノメートルの粒子で構成されている。精製されたこの粒子を、コレステロールとリン脂質からなる独自の処方で融合している。この独自のアジュバントは、注射部位への抗原提示細胞(APC)の侵入を促し、局所リンパ節での抗原提示を促進することで、T細胞、B細胞、APCを活性化し、免疫反応を高めることで、強力かつ忍容性の高い効果を発揮する。Matrix-M™は、中和抗体を増加させ、長期保存可能なメモリーB細胞を誘導し、B細胞の免疫力を高めるとともに、CD4+およびCD8+ T細胞をリクルートし、T細胞の免疫力を高めることが確認されている。


パイプライン:

NVX-CoV2373

新型コロナウイルスSARS-CoV-2のスパイクたんぱく質に由来する抗原とMatrix-M™アジュバントとの組み合わせ。筋肉内投与。3週間の間隔をあけて2回投与。

開発中の適応症

・承認申請段階(緊急使用承認かBLAかは未定)

新型コロナウイルスCOVID-19予防


NanoFlu™

Matrix-M™アジュバントと4価ナノ粒子を用いた季節性インフルエンザワクチン。筋肉内1回投与。

開発中の適応症

・承認申請段階

季節性インフルエンザ予防


ResVax™

世界中の乳幼児における重篤な下気道疾患の主要な原因ウイルスであるRSウイルス(https://ja.wikipedia.org/wiki/RS%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9)の融合(F)タンパク質ナノ粒子と独自のアルミニウム・アジュバントを用いたRSウイルスワクチン。筋肉内1回投与。以下の3グループに対するワクチン接種を想定している(1)妊産婦への接種による乳幼児、(2)60歳以上の高齢者、(3)生後6ヶ月から5歳までの小児。

開発中の適応症

・承認申請段階

RSウイルス感染症予防


エボラGPワクチン

リコンビナントEBOV糖たんぱく質とMatrix-M™アジュバントを用いたエボラウイルスワクチン。筋肉内投与。3週間の間隔をあけて2回投与。現在、積極的な開発は行われていない。

開発中の適応症

・Phase I

エボラウイルス感染症予防


MERS、SARSワクチン

MERS、SARSのスパイクたんぱく質に由来する抗原を用いたワクチン。現在、積極的な開発は行われていない。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

MERS、SARS感染症予防


最近のニュース:

NOVAVAXのCOVID-19ワクチン候補であるNVX-CoV2373の日本での開発・製造・販売に関する提携を発表


コメント:

・mRNAワクチンは今のところ、有効性、安全性とも高く、問題点は指摘されていないが、今後なにかあった時のために、別アプローチのワクチン技術もあった方がよいのは間違いない。NOVAVAXのワクチンが高い有効性を示したことで、有望な代替法が用意できたのは心強い。


・塩野義製薬が開発中のCOVID-19ワクチンもリコンビナントたんぱく質ワクチンであり、こちらも良い結果が出ることを期待するが、果たしてどうなるだろうか。


・Sf9昆虫細胞/バキュロウイルスを用いたたんぱく質精製は、すでに確立された技術であり、製造への不安は少ないが、mRNAに比べると製造に時間がかかるため、変異に対して迅速に対応できるのはmRNAワクチンに利点がある。


・このリコンビナントたんぱく質にはバキュロウイルスの混入はないのだろうか?あるのであれば日本におけるカルタヘナ法への対応はどのようになるのだろうか?


キーワード:

・リコンビナントたんぱく質ワクチン

・新型コロナウイルス感染症COVID-19

・感染症


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。


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