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Federation Bio (South San Francisco, CA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第201回)ー


天然の腸内マイクロバイオームに匹敵する規模と多様性を持つ、代謝的に完全な微生物コミュニティをそのまま移植することで、長期に渡り移植マイクロバイオームの定着した状態を作り出す腸内細菌治療法を開発しているバイオベンチャー



ホームページ:https://www.federation.bio/


背景とテクノロジー:

・人体と外界の間には微生物叢が存在し、人体(宿主)に様々な影響を与えている。中でも腸内微生物叢は宿主と相互作用する複雑な微生物生態系であり、腸内マイクロバイオームという用語は、その遺伝的プール(私たちの「第二のゲノム」)を意味していると言われている。


・腸内マイクロバイオームは、免疫系を制御するだけでなく、いくつかの代謝物やビタミンの合成と放出を通じて健康を促進する。短鎖脂肪酸(SCFAsー酪酸、酢酸、プロピオン酸)は、腸内細菌のグリカン発酵から得られ、Gタンパク質共役型再受容体(GPCR)を介して、およびヒストン脱アセチルラーゼ(HDACs)の阻害によって宿主と相互作用し、免疫系を調節する。


・しかし、細菌の酵素はまた、トリメチルアミンなどの毒性代謝物を放出することができ、後に肝臓で酸化されてトリメチルアミン-N-オキシドとなり、心血管疾患につながる。また、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridioides difficile)や腸管出血性大腸菌などの病原体が引き起こす疾患は、腸内マイクロバイオーム中のバランスの乱れから特定の細菌種が増殖してきた結果であると考えられている。


・細菌叢における疾患特異的な変化は、ディスバイオシス(dysbiosis)と呼ばれ、炎症性腸疾患(IBD)、肥満、2型糖尿病、パーキンソン病や自閉症を含む代謝性疾患など、いくつかのヒトの慢性疾患で観察されている。これらのことから、腸内マイクロバイオームが他の臓器システムとの間でつながり宿主の生理的機能に影響を与えているだけでなく、その障害が疾患を引き起こす原因となっている可能性が示されてきている。そのため、腸内マイクロバイオームを標的とした創薬が進められている。


・例えば、Seres Therapeuticsは、健常人の糞便中の腸内細菌をカプセル化してクロストリジウム・ディフィシル感染症や潰瘍性大腸炎を治療する治療薬SER-109、SER-287(それぞれ)を臨床開発中である。Vedanta Biosciencesも腸内細菌に着目したバイオベンチャーだが、単一の細菌を移植する方法や、健常人の糞便由来の腸内細菌を移植する方法とは異なり、有用と考えられる細菌を複数種ミックスし、生きた状態でパウダー化した経口投与可能な製剤を用いた治療法を開発している。


・これらのアプローチが臨床で効果を示すかどうかは今後明らかになってくるのだが、外部から細菌を投与する方法では、細菌が定着しないために効果が短期的になってしまうという可能性も言われている。そこで、生体内の常在細菌叢をコントロールする方法として、CRISPR/Casシステムを利用して、腸内細菌叢のある特定の細菌/感染症の原因細菌だけを殺す(Cas3によってDNAを切断する)ことで治療に使えないかを検討しているバイオベンチャーがある。それがLOCUS BIOSCIENCESで、標的細菌にガイドRNA遺伝子(標的細菌の配列)とCas3遺伝子を挿入するモダリティとしてバクテリオファージカクテルを用いた、ファージセラピーの開発を行っている。またBiomXは、天然もしくは人工の溶菌性ファージを用いて、症性腸疾患(IBD)、肝臓病、がんなどの慢性疾患の有害な細菌を標的にして破壊するファージセラピーを開発している。


・今回紹介するFederation Bioは、腸内マイクロバイオームをターゲットとした治療法開発を行っているバイオベンチャーであり、2つのプラットフォームに取り組んでいる。1つ目は、天然の腸内マイクロバイオームに匹敵する規模と多様性を持つ、代謝的に完全な微生物コミュニティを作り出す「コミュニティ・プラットフォーム」で、患者の体内に安定的に定着し、慢性疾患を持続的に治療するための生態系を構築するように設計されている。もう1つは、免疫システムに影響を与えることが知られている細菌を遺伝子組み換えし、免疫システムを強力かつ特異的に調節するユニークな能力を持つ特定の微生物を遺伝子組み換えで作製するプラットフォームで、内因性T細胞応答を調節し、がんや自己免疫疾患を含む免疫系の異常による疾患の治療のために設計される。


パイプライン:

2次性高シュウ酸尿症

シュウ酸塩を唯一の食料源とする細菌群と、この細菌群をサポートするための細菌群をミックスした経口投与の治療薬。

高シュウ酸尿症には複数の原因があり、シュウ酸塩と呼ばれる物質がカルシウムと結合して腎臓結石を再発させる。Alnylam Pharmaceuticalsでは、原発性高シュウ酸尿症のRNAサイレンシング治療薬であるlumasiranの開発に取り組んでいるが、これは遺伝子の変異によって体内でシュウ酸が過剰に生成されることが原因である。しかし、そのアプローチは、対処すべき突然変異を持たず、食品からのシュウ酸塩の不吸収が原因である2次性高シュウ酸尿症の患者には効果がない。どちらのタイプの高シュウ酸尿症に対しても、まだ承認された治療法はないため、患者の唯一の選択肢は、水分摂取量を増やすか、カルシウムサプリメントを摂取するか、シュウ酸塩を多く含む食品を避けることである。

Federation Bioでは、シュウ酸を分解する細菌群を腸内に定着させる、経口投与による治療法を開発している。これはヒト腸内マイクロバイオームから同定されたシュウ酸塩を唯一の食料源とする細菌群である。この細菌群をサポートするための細菌群も含まれており、炎症を抑制する。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

高シュウ酸尿症


その他

代謝性疾患、免疫疾患、がんを適応とした腸内マイクロバイオーム治療薬を開発している。



コメント:

・”背景とテクノロジー”欄で記載したように、外部から細菌を投与する方法では、細菌が定着しないために効果が短期的になってしまうという可能性が言われている。Federation Bioでは、この可能性を払拭するために、機能をもつ細菌群だけでなく、その細菌群をサポートする細菌群をミックスすることで、腸内での定着を促すというアプローチをとっている。この方法により3−5年後でも移植された有用な細菌群が定着したことを確認しているとのこと。


・Federation Bioが持つ2つのプラットフォームの1つである「コミュニティ・プラットフォーム」では、天然の腸内マイクロバイオームに匹敵する規模と多様性を持つ、代謝的に完全な微生物コミュニティを移植するとのことだが、天然の腸内マイクロバイオームには人工的には培養が難しい細菌群も多いと言われている。これらの培養が難しい細菌もしくはその代替細菌を大量製造する技術の開発は進んでいるのかどうか知りたいところ。


キーワード:

・腸内細菌叢

・細菌コミュニティ移植

・希少疾患

・がん免疫、自己免疫疾患


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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