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NeuExcell Therapeutics (State College, PA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第249回)ー

  • 2022年1月16日
  • 読了時間: 6分

一度変性してしまうと再生できない神経細胞を、脳内の別の細胞(グリア細胞)からリプログラミングすることで生体内で作り出すダイレクトリプログラミングという治療法の開発を行っているバイオベンチャー


ホームページ:https://neuexcell.com/


背景とテクノロジー:

・脳卒中、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄損傷(SCI)などの神経疾患は、米国では数百万人、世界中ではさらに多くの患者さんが苦しんでいる。 医療面、経済面での負担は、家族だけでなく社会全体に多大な影響を与えている。脳卒中は、米国における長期障害の主な原因であり、毎年80万人近くが脳卒中を経験し、700万人が脳卒中の生存者となっている。 またアルツハイマー病は、米国および世界中で急速に増加しており、米国では570万人の患者さんがいて、高齢化の進展に伴い、その数は毎年大幅に増加している。 米国におけるアルツハイマー病患者様の年間治療費は、2018年には2,770億ドル、2050年には1兆ドルを超えると予測されている。


・急性の神経損傷や神経変性疾患では、機能的なニューロンが失われることが共通して見られる。 神経細胞が自己補充できないことは、神経疾患の治療において最大の課題となっている。現在の治療法のほとんどは、神経細胞の減少を防ぐか、遅らせることを目的としているが、いったん神経細胞が失われると、多くの新しい神経細胞を再生することはできnI。 そのため、ADやALSなどの神経変性疾患や、脳卒中などの神経損傷に有効な治療法はほとんどない。 機能的に新しい神経細胞を再生するための新しい技術の開発は、学術界や産業界の研究者たちの長年の追求であった。


・神経組織には、神経細胞とそれを支えるグリア細胞(アストロサイト)という、大きく分けて2種類の細胞が存在する。 神経細胞とアストロサイトは、ともに神経幹細胞から分化したもので、多くの類似した特徴を持っている。しかし、アストロサイトは分裂して自分自身を補充することができるが、神経細胞は自身を補充できない。 疾患や損傷を受けた神経組織では、神経細胞が傷ついたり死んだりした後に、アストロサイトが反応して増殖する。そこで、神経細胞の隣にある反応性の高いアストロサイトの遺伝子発現プロファイルを操作することで、アストロサイトを新しい神経細胞に直接変換するダイレクトリプログラミングという技術が開発されてきている。

・この変換は、アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いた遺伝子治療で神経転写因子NEUROD1を導入する方法と、小分子のカクテルを用いて誘導する方法の2通りがある。どちらのアプローチも、アストロサイトの遺伝子発現をサイレンシングし、神経細胞の遺伝子発現をオンにすることで、最終的にアストロサイトを神経細胞に変える。新たに生成された神経細胞は、数週間で成熟して機能的になり、最終的には既存の神経細胞ネットワークに統合される。

・この技術は、生体内でアストロサイトを神経細胞に直接変換するため、神経幹細胞の移植治療に伴う制限を回避できる。神経損傷部位には大量のアストロサイトが存在するため、損傷した脳を修復し、失われた脳機能を回復するのに十分な数の機能的な神経細胞を新たに生成することができる。報告されている非臨床研究では、脳卒中モデルにおいて、虚血で損傷した神経組織の最大80%が修復され、運動機能や認知機能の障害が大幅に改善されるという結果が得られているとのこと。


・今回紹介するNeuExcell Therapeuticsは、この生体内で脳内のアストロサイトにAAVベクターを用いてNEUROD1を発現させることで、アストロサイトを神経細胞に直接転換(ダイレクトリプログラミング)させ、神経変性疾患で減少している神経細胞を補充するという治療法の開発を行っているバイオベンチャーである。


パイプライン:(詳細未開示)

NXL-001

開発中の適応症

・リードプロダクト最適化段階

脳卒中


NXL-002

開発中の適応症

・リードプロダクト最適化段階

ハンチントン病


NXL-003

開発中の適応症

・コンセプト妥当性評価段階

アルツハイマー病


NXL-004

開発中の適応症

・コンセプト妥当性評価段階

筋萎縮性側索硬化症(ALS)


NXL-005

開発中の適応症

・コンセプト妥当性評価段階

パーキンソン病


NXL-006

開発中の適応症

・コンセプト妥当性評価段階

脊髄損傷


NXL-007

開発中の適応症

・コンセプト妥当性評価段階

外傷性脳損傷


NXL-008

開発中の適応症

・コンセプト妥当性評価段階

他の神経変性疾患


コメント:

・神経幹細胞の脳内移植に比べて、生体内のアストロサイトを神経細胞に直接転換するアプローチの利点は以下の通り。

他家移植の免疫応答を回避できる

神経幹細胞は他人のES細胞やiPS細胞から作られて移植される場合、他家移植となるため拒絶反応が起こるリスクがある。iPS細胞を用いれば自家移植も可能だが、非常にコストがかかる上、質の高いiPS細胞を安定的に作り出す技術が必要になる。ダイレクトリプログラミングは自分自身の脳内にあるアストロサイトを転換するため、免疫応答のリスクは低い(AAVベクターの免疫応答リスクはある)。

がん化のリスクが軽減される

ES細胞やiPS細胞由来の神経幹細胞移植には、移植細胞中に未分化細胞が残存することで、がん化のリスクがある。一方、生体内の分化細胞であるアストロサイトを同じく分化細胞である神経細胞に転換するダイレクトリプログラミングは、がん化のリスクが低い。

③細胞製造ほど製造工程が複雑ではない

細胞治療はその品質管理が非常に難しい。ウイルスベクターも簡単ではないが、現状細胞製造よりはハードルが低いと考えられている。


・一方で以下のようなリスクがある。

アストロサイト特異的にNEUROD1遺伝子発現させる技術の制御

非臨床研究ではアストロサイト特異的プロモーター下でNEUROD1を発現させているが、最近の報告から、プロモーター制御では非アストロサイトで発現してしまうリスクがあることが報告されている。アストロサイト以外の細胞にNEUROD1が発現した際のリスクは現状不明。

脳へのデリバリー法の開発

AAVを脳にデリバリーする方法としてZolgensmaのAAV9ベクターを用いた方法などが開発されているが、これらの現行の技術で十分な遺伝子が標的細胞にデリバリーできるかは未知数。

ダイレクトリプログラミング効率が低い

アストロサイトに遺伝子を発現させられたとしても、そのリプログラミング効率は一桁%であり、その効率は十分ではない可能性が高い。

エピジェネティックな変化が保存されている

分化細胞からiPS細胞へのリプログラミングでは、エピジェネティクスがリセットされているが、ダイレクトリプログラミングではエピジェネティックな変化はあまり起こらないことが報告されている。老化したアストロサイトを神経細胞にリプログラミングしても、老化した神経細胞ができてしまい、細胞死を起こしやすいかもしれない。


キーワード:

・ダイレクトリプログラミング

・アストロサイト→神経細胞

・神経変性疾患

・遺伝子治療(アデノ随伴ウイルスベクター)


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

 
 
 

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