
何万人もの腎臓病患者さんのゲノム、トランスクリプトーム、臨床データが蓄積された独自のデータベースを用いて、バイオマーカーと治療薬のセットで見つけ出すアプローチで慢性腎臓病の精密医療プラットフォームの開発を目指すバイオベンチャー
背景とテクノロジー:
・慢性腎臓病(CKD)は、世界で7億8,000万人が罹患しており、これは10人に1人の割合である。末期腎不全への移行は一般的で、生活の質に深刻な影響を及ぼす。それにもかかわらず、医薬品業界全体の研究プログラムのうち、慢性腎臓病の大きな負担を軽減することに焦点を当てているのは1%にも満たない。
・腎臓病は、腎臓の糸球体や尿細管が冒されることで、腎臓の働きが悪くなる病気である。腎臓の機能はいちど失われると、回復することがない場合が多い。疾患初期においては、降圧薬による血圧管理、塩分と水分の制限によって余分な水分の蓄積を防ぐ、たんぱく質・リン・カリウムの摂取制限とエネルギーの十分な摂取などの食事療法、症状に応じた薬剤の投与などによって進行を遅らせることができる。進行が進むと、体内に尿毒素や余分な水分が蓄積し、尿毒症状が出てくるため、体内にたまった老廃物を除去するためになんらかの腎代替療法が必要となる。疾患末期においては、対症療法として人工透析療法(腹膜透析や血液透析)、根治療法として腎臓移植(献腎移植や生体腎移植)が必要となるが、患者さんのQOL低下は避けられない。
・今回紹介するGoldfinch Bioは慢性腎臓病に対する新規治療薬の開発を行っているバイオベンチャーで、プレシジョン・メディシン(精密医療)の手法を用いて、疾患修飾性のある腎臓病治療薬の発見、開発、製品化を目指している。遺伝的および環境的要因の解析に基づいて、異質な腎臓病患者さんのサブセットを層別化し、それぞれの患者さん集団に適した治療法を開発することをゴールとしている。
・Goldfinch Bioの独自技術プラットフォームである精密医療製品エンジンは、様々な患者さん集団における分子および表現型の不均一性を理解し、治療に最も反応しやすいサブセットを特定することを目的とする。また、新規ターゲットの発見と検証も可能とする。
①腎臓ゲノムアトラス(Kidney Gene Atlas(KGA)™)プラットフォーム
KGA™は、患者さんのサブセットにおける腎臓疾患の遺伝的および環境的原因と、それに関連する治療介入のための生物学的ターゲットを特定するために、社内で構築された独自の計算機プラットフォームである。KGAプラットフォームには、何万人もの腎臓病患者さんのゲノム、トランスクリプトーム、臨床データが蓄積されている。これらのデータを独自のアルゴリズムやその他の方法で解析し、腎臓病の分子的・環境的原因を特定する。 現在、KGAプラットフォームは、2万人以上の患者さんおよび人口ベースの対照群から得られたデータで構成されており、今後もKGAのデータを他の腎臓疾患に拡大していく予定。
②ヒトオルガノイドおよびポドサイトのin vivoおよびin vitroモデル
ヒト幹細胞由来のオルガノイドおよびポドサイトのin vivoおよびin vitroモデルは、前臨床モデルと臨床研究の間のトランスレーショナルギャップを縮めるために用いられ、ヒトの生理学および病理学を模倣した試験系としてターゲット検証を行っている。小動物モデルの腎臓カプセル下にオルガノイドを移植するモデルを確立し、オルガノイドの成熟と血管形成を可能にすることで、生体内での評価を容易にし、これまでオルガノイドを用いて生体内での薬物動態や薬力学の解析ができないという課題を克服している。移植されたヒト幹細胞由来のオルガノイドを用いたヒトの腎臓疾患を再現する試験系と、KGAプラットフォームから得られる知見を組み合わせることで、これまでにないレベルのトランスレーショナルリサーチの信頼性を持つターゲットの同定と検証が可能になるとGoldfinch Bioは考えている。
③低分子化合物の創薬プラットフォーム
イオンチャネル、GPCR、キナーゼなど、細胞質や膜に結合した様々なターゲットを標的化するために、専門家からなる強力なチームと新しいツールやアプローチを統合している。さらに、Ligand-based Drug Discovery(LBDD)やStructure-based Drug Discovery(SBDD)を用いて、構造活性相関を確立し、マルチパラメトリックデータを統合することで、新たな知見や設計仮説を導き出す。一連の計算機、ケムインフォマティクス、分子モデリングツールを用いて、構造生物学、分子モデリング、in vitro、細胞、ADME、PK、in vivoの各種実験から得られたクロスファンクショナルデータを組み合わせることができる。
パイプライン:
・GFB-887
TRPC5(Transient Receptor Potential Cation Channel Subfamily C Member 5)-Rac1経路が過剰に活性化している腎臓病患者さんを治療するために特別に設計された、ポドサイトを標的とした精密治療ベースの低分子TRPC5阻害剤。血圧を変化させることなく、タンパク尿を減らし、ポドサイト数を維持するように設計されている。尿中のRac1バイオマーカーは、治療に最も反応しやすい患者さんのサブセットを予測する可能性がある。
以下のような病態仮説に基づいている。
TRPC5は、カルシウム透過性の非選択的なカチオンチャネル。健康な状態では、TRPC5チャネルはポドサイトの細胞内小胞上に存在し、細胞表面での発現や活性は限られている。Rac1シグナルが過剰に活性化される異常状態(病態)になると、TRPC5が細胞膜に挿入され、チャネルが活性化される。 これにより、カルシウムが細胞内に流入し、カルシニューリンが活性化され、さらにRac1が活性化され、最終的には病的な正のフィードバックループが形成される。TRCP5-Rac1経路の活性化は、ポドサイトの細胞骨格を破壊し、タンパク尿、ポドサイトの死、糸球体の硬化・瘢痕化を引き起こす。巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)患者さんの約60~70%は、TRPC5-Rac1経路の活性化が原因で、ポドサイトの損傷、ポドサイトの消失、腎不全を引き起こしているとGoldfinch Bioは考えている。
開発中の適応症
・Phase II
・GFB-024
末梢に限定されたカンナビノイド1(CB1)インバースアゴニストモノクローナル抗体。重度のインスリン抵抗性糖尿病性腎症(SIRDN)でCB1経路が過剰に活性化している一部の人々への有効性を期待。末梢の受容体のみを標的とすることで、従来の第一世代のCB1低分子インバースアゴニストに見られたような、中枢神経系に関連する副作用のリスクを最小限に抑えることができると想定。CB1経路に特異的なバイオマーカーは、ターゲットの関与、治療効果、患者さん選択を予測する可能性がある。
開発中の適応症
・Phase I
糖尿病性腎症
最近のニュース:
糖尿病性腎疾患および一部のオーファン腎疾患の治療薬の発見、開発、商業化を目的とした複数年の共同研究契約をGileadと締結。Gileadは、KGAから得られるターゲットを対象とした特定の製品の世界的なライセンス権に関する独占オプションを保有する。
コメント:
・バイオマーカーを基に治療薬を選択する精密医療は、がん治療の領域で実臨床で成果を出している。Goldfinch Bioの精密医療はこれが腎臓疾患でも適用可能かどうかを見る試金石となる。腎臓疾患では、血中だけでなく尿も非侵襲的生検サンプルとして利用可能であり、(脳の疾患とは異なり)病態の状況を把握しやすい疾患である可能性があり、結果が注目される。
・腎臓疾患の層別化がこれまでどの程度行われてきているのかわからないのだが、今回のバイオマーカーによる腎臓疾患層別化で、腎臓疾患全体のどの程度の割合の患者さんに適用可能なのかが知りたいところだ。
キーワード:
・慢性腎臓病
・低分子化合物
・バイオマーカー
・精密医療
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。
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