
患者さん自身の皮膚細胞から作製したiPS細胞をドパミンニューロンに分化させて脳内に移植する方法によるパーキンソン病治療法を開発しているバイオベンチャー。遺伝子解析とバイオインフォマティクス解析を組み合わせることで安定的な同質の細胞製造を目指している。
背景とテクノロジー:
・アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療など、新たなモダリティを用いた治療法の開発が進んでいる。新たなモダリティの中では、細胞医療は開発が少し遅れているが、それは細胞は製造のコントロールが難しいことが一因と考えられる。
・例えば、ヒトiPS細胞はヒト細胞に山中4因子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を遺伝子導入して作製されるが、できた細胞クローンごとに少しずつ特徴(増殖能や分化能など)が異なっていることが知られている。また、iPS細胞から分化した細胞を用いる際に、造腫瘍性を持つ未分化細胞が残存してしまう可能性も示唆されている。
・これらの課題を解決するための方法として、慶應義塾大学医学部の福田恵一教授らのグループは、山中4因子を改変した、Oct3/4, Sox2, Klf4, H1fooの4因子でiPS細胞を作ることで、iPS細胞作製時のばらつきを減少させられることを報告している(参考)。
・また、国立医薬品食品衛生研究所の佐藤陽治部長らのグループは、SALL3遺伝子の未分化状態での発現量を測定することで、相対的に発現量が高い細胞株は外胚葉に分化しやすく、逆に発現量が低い細胞株は中・内胚葉に分化しやすいことが予測できることを報告している(参考)。
・京都大学iPS研究所の齊藤博英教授らのグループは、iPS細胞内で活性の高いマイクロRNA(miRNA)を感知するメッセンジャーRNA(mRNA)を合成し、細胞内に導入することで、 iPS細胞や部分的に分化したiPS細胞(未分化細胞)を特異的に識別・除去できるしくみを構築したことを報告している(参考)。
・今回紹介するAspen Neuroscienceは、患者さん自身の皮膚細胞から作製したiPS細胞をドパミンニューロンに分化させ、脳内に移植することでパーキンソン病を治療する方法を開発しているバイオベンチャーである。
・京都大学iPS研究所の高橋純教授らのグループも、iPS細胞から分化させたドパミンニューロンの脳内移植によるパーキンソン病治療法の治験をスタートさせているが、こちらはiPS細胞臨床株を用いた他家移植療法である(参考)。他人の細胞を用いるため、免疫抑制剤の使用を前提としているが、Aspen Neuroscienceでは自家移植療法のため、免疫抑制剤は必要でない可能性が高い。また、他家移植の場合、免疫拒絶が起こるために2度目の細胞移植は難しいが、自家移植の場合は複数回の細胞移植が可能だと考えられる。
・また、他家細胞の場合はiPS細胞を大量に増殖(1つのiPS細胞株から数十億個の細胞に増幅)させるため、ゲノムに変異が起こるリスクが増えるが、自家細胞の場合は必要細胞数が少ない(1つのiPS細胞株から数百万個の増幅)ため、ゲノムに変異が起こるリスクが減らせる。
・Aspen Neuroscienceでは、遺伝子発現解析(DNAマイクロアレイ)とバイオインフォマティクス解析によって、iPS細胞および、iPS細胞の分化細胞にどのような細胞群が含まれているのかを明らかにする機械学習ツールを開発している。この方法により細胞治療において課題となっている生物学的同質性(同等性)を持った細胞供給が可能になると考えている。
パイプライン:
・ANPD001
孤発性パーキンソン病患者さん自身の皮膚細胞から作製したiPS細胞をA9神経様のドパミンニューロンに分化させた細胞の脳内移植療法。
開発中の適応症
・IND可能非臨床研究段階
孤発性パーキンソン病
・ANPD002
glucocerebrosidase (GBA)遺伝子に変異を持つ家族性パーキンソン病患者さん自身の皮膚細胞から作製したiPS細胞を、遺伝子編集技術を用いて変異遺伝子を改変した上で、A9神経様のドパミンニューロンに分化させて脳内移植する治療法。
開発中の適応症
・探索研究段階
GBA遺伝子に変異を持つ家族性パーキンソン病
コメント:
・”背景とテクノロジー”欄に書いたように、Aspen Neuroscienceのホームページには自家移植のメリットが列挙されているが、自家細胞からiPS細胞を作って分化させて移植する方法は非常にコストがかかる。この課題を解決する方法はなかなか難しいと思うのだが、どうするのだろうか?
・Aspen NeuroscienceではDNAマイクロアレイを用いてどんな細胞集団が含まれているかを解析しているが、京都大学iPS研究所などでは、シングルセルRNAシークエンス解析を用いた解析法を開発しており(参考)、こちらのほうが精度が高い。シングルセルRNAシークエンス解析は、疾患の理解や診断など様々な用途に応用可能な技術であり、今後さらに幅広く使われていくだろう。現状はコストが高いが、コストダウンも進んでいくだろう。
キーワード:
・自家細胞移植
・iPS細胞由来ドパミン神経細胞
・パーキンソン病(孤発性・家族性)
・DNAマイクロアレイ
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。
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