患者さん一人ひとりの神経回路の異常をモニターすることで層別化を行い、それに基づいた治療法の開発という精神疾患領域では未だ確立されていない治療法確立を目指すバイオベンチャー
背景とテクノロジー:
・現状の精神疾患治療は、医師による問診で見られた症状から判断されて薬が処方される。しかし、処方された薬が効かない場合も多々ある。
・また、うつ病と双極性障害など、精神疾患は症状だけからは明確な診断がつきにくいケースも多い。
・これは、症状の背景にある脳内のメカニズムを明らかにする方法がないことに一因があると考えられる(つまり、病気を診断する客観的バイオマーカーがない)。
・BlackThorn Therapeuticsでは、精神疾患における神経回路を明らかにするための脳イメージング法を開発している。また、異常な神経回路のキーとなる受容体の同定を行っている。
・加えて、治療に効果を持つ患者さんを選別するためのデジタルバイオマーカー(スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスやバイオセンサーで計測される数値)の開発を行っている。
・これらの精神疾患患者さんで測定された結果を人工知能や機械学習技術を用いて解析し、新たなインサイトを得ることで、新薬探索や臨床開発プロセスへの応用を目指している。
パイプライン:
・BTRX-335140
選択的κオピオイド受容体アンタゴニストの低分子化合物。ストレスやcorticotropin-releasing factor(CRF;ストレスに応答して放出される神経ペプチド)によって引き起こされるシグナルを阻害する。非臨床実験において、抗うつ様作用、抗不安作用が示されている。
開発中の適応症
・Phase I
気分障害、不安症
・BTRX-323511
選択的バソプレシン1a受容体アンタゴニスト。オキシトシンの点鼻投与によって自閉症に効果を持つことが示され、オキシトシン受容体アゴニストの探索が進められているが、バソプレシンはオキシトシンと類似性の高いペプチドホルモンで、オキシトシンの作用を打ち消す効果を持つことが報告されている(オキシトシンとバソプレシンの日本語による詳しい説明はこちら)
開発中の適応症
・前臨床試験段階
自閉症スペクトラム障害
コメント:
・精神疾患は症状からの診断に頼っているのが現状であり、何らかの客観的指標の確立が必要と考えられている。血中バイオマーカーやfunctional MRIを用いた診断法の確立が試みられている。興味深い報告が増えてきているものの、まだ実用化されるには至っていないのが現状である。
・BlackThornでは脳イメージングとデジタルバイオマーカーの結果を用いて人工知能・機械学習技術で患者さんの層別化を開発している。これがうまくいけばすばらしい。すでに開発が始まっているκオピオイド受容体アンタゴニストの臨床試験はどのような層別化をしているのか知りたいところ。
・過去にイーライ・リリーから導入したノシセプチン受容体アンタゴニストBTRX-246040の臨床開発を行っていたが、失敗に終わったようだ(参考)。
・これまで紹介してきた細胞治療、遺伝子治療、がん免疫などのベンチャーに比べると派手さに欠ける。これは精神疾患領域の創薬がまだ技術開発が未熟なせいで、この分野はまだまだ未開の地であると言える。逆に言えばブレイクスルーが生まれれば一気に進展するかもということだ。BlackThornはこの領域では注目のベンチャーであり、ブレイクスルーを起こすことを期待されている。
・バソプレシン受容体1aアンタゴニストはRocheのBalovaptan(RG7314)がPhase III進行中で先行している(参考)。
キーワード:
・精神疾患(気分障害・自閉症)
・低分子化合物
・人工知能
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。